インプラント治療において問題となるインプラント周囲炎では、インプラント周囲粘膜の炎症に続いて周囲骨が吸収される。本研究でインプラント周囲炎治療薬の候補として着目したポリリン酸は骨形成を促進することが報告されている。一方、研究代表者は、細菌由来物質リポポリサッカライド(LPS)により活性化されたマクロファージにおいて、炎症関連分子である誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現をポリリン酸が抑制することを見出した。本研究では、LPSにより活性化された炎症性のマクロファージにおける遺伝子発現をポリリン酸がどのように変化させるのか、さらに検討した。その結果、ポリリン酸はインターロイキンIL-1β、IL-6、IL-10の発現を変化させなかったが、ケモカインCXCL10の発現を抑制することが明らかとなった。 CXCL10やiNOSの発現には転写因子STAT1が深く関わっている。これまでの検討により、ポリリン酸はLPSによるIRF3リン酸化を抑制し、その結果、STAT1リン酸化が低下することを示唆する結果を得ている。さらに本研究では、ポリリン酸がSTAT1リン酸化を低下させる新たな機構として、IFN-βの作用の抑制や脱リン酸化酵素SHP2の活性化が示唆された。 一方、破骨前駆細胞にLPSを処置すると破骨細胞への分化が抑制される。ポリリン酸はLPSのこの作用を抑制することなく、むしろ分化の抑制をさらに強めた。 以上より、LPSにより活性化されたマクロファージにおいて、ポリリン酸は複数の経路を介してSTAT1リン酸化を抑制し、リン酸化STAT1により促進される遺伝子発現を低下させることが示唆された。また、ポリリン酸はLPSによる破骨細胞の分化抑制を強める可能性が示された。本研究により、ポリリン酸の新たな作用が明らかとなり、ポリリン酸を臨床で用いる上で重要な知見を得ることができた。
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