これまでの研究成果において、チタン表面にハイドロキシアパタイト薄膜を形成することが可能なスラリー埋没加熱処理法を用いることで、表面処理したチタン周囲において、早期に骨が形成されること、また、骨関連タンパクや遺伝子の計測においても有意に高い発現を認めたため、骨髄細胞から骨芽細胞への分化を促進することを明らかにした。本研究では、本処理法により表面処理したインプラント体の使用により糖尿病のような骨代謝能力が下がっている患者さんに対し、治療適応の拡大、治療期間の短縮を可能にするのではないかと考え本研究を実施した。 実施計画に従い、臨床実態に近いチタンスクリューを基材とした。このスクリューにスラリー埋没加熱処理を施し、試料とした。また、コントロールとしてスラリー処理と同温度・同時間で熱処理のみ施したスクリューを用いた。糖尿病ラットとして、2型糖尿病モデルのGKラットを用い、ラットの左側上顎第一臼歯を抜歯後、スラリー処理したスクリューもしくは熱処理のみのスクリューを抜歯窩に即時埋入した。 しかし、表面処理の際の熱処理によりスクリューのネジ頭が鈍化したこと、また、GKラットの骨質がもろいことから抜歯窩にスクリューを埋入できないラットが発生した。サンプリングは予定通り1週および4週後に行ったが、サンプリング時点でスクリューが顎骨から脱落しているラットもあった。そのため、ラットのサンプル数が充分に確保できず、今回はサンプルとして使用可能なものはすべて脱灰標本にした。 標本は脱灰後パラフィン包埋し、H.E.染色を施した。1週においてはスラリー処理群および熱処理群ともにスクリュー周囲に炎症性細胞が浸潤しており、骨の新生はわずかにしか認めなかった。4週においては、両者において粗造な新生骨を認めたが、スラリー処理群ではより厚みのある新生骨が形成され、チタン周囲での骨形成が促進されるのを認めた。
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