研究実績の概要 |
インプラント周囲炎は,わずかに存在しているとされる上皮性付着の破綻に始まり,さらなる炎症の進展に伴って起こる上皮の下方増殖によって引き起こされる。インプラント周囲上皮の下方増殖による深いポケットの形成は、嫌気性細菌が主体である歯周病細菌に対して発育する環境を与えてしまう。またインプラント周囲上皮の下方増殖は、結合組織の減少を引き起こし、結合組織は減少したその幅を確保しようとするため、結果として骨の吸収を引き起こすとされる。そのため上皮・結合組織がどのような分子を発現し、組織の恒常性を維持し、生物学的幅経を維持しているのかを理解することは重要である。そこで本研究では、インプラント周囲上皮がどのような機序で恒常性を維持しているのか、インプラント周囲上皮と結合組織で発現する上皮の増殖性に影響を与える因子を同定することとした。 研究の結果、インプラント周囲上皮・結合組織ではSLPI,TGFBR2,LBPが発現していることがわかった。インプラント周囲上皮で有意に高く発現していたSLPIは、プロテアーゼインヒビターであり上皮の組織破壊を引き起こす好中球が分泌するプロテアーゼやマトリックスプロテアーゼ(MMP)を阻害する働きを有する。そのため、細菌の進入時に生じた炎症による組織破壊や上皮の下方増殖を抑制する働きを有する可能性がある。また有意に低く発現していたTGFBR2は、上皮の正常な分化と増殖を制御する因子のレセプターである。結合組織で発現していたLBPは腸の上皮組織の治癒を促進するとする報告がある。そのためSLPI,TGFBR2,LBPはインプラント周囲の軟組織で発現し上皮と結合組織の恒常性維持に関与していた可能性が示唆された。
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