研究実績の概要 |
幼若ブタ歯胚から抽出されたエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)は歯周組織再生療法に広く利用されているが, 動物由来の製剤で未知の病原体やタンパクが含まれているという問題がある. したがって, 生物に由来しない人工的に合成可能な歯周組織製剤が必要とされているため, EMD由来合成ペプチド(SP)を作製した. EMDは歯周組織の創傷治癒を促進することが知られているが, 歯周組織の初期創傷治癒に重要な役割を果たす歯肉線維芽細胞に対するSPの影響については未だ明らかではない. 本研究は初期の歯周組織創傷治癒に対するSPの影響について検討した. ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)に対するSPの影響としては, 合成ペプチド(0, 1,10,100,1000 ng/ml)を添加したFBS 含有DMEM 培地で培養し,細胞増殖能, 接着能を検討した. Extracellular Signal-regulated Kinase(ERK)1/2はMAPKファミリーのひとつであり, 細胞の増殖や接着を制御する役割がある. 本研究では, SPがHGFのERK 1/2リン酸化に影響を及ぼすかについて, ウエスタンブロット法を用いて検討した. SPに対するHGFの増殖は10, 100 ng/ml濃度のSP添加1, 3, 5, 7日後において, SP添加群で対照群と比較して有意に高い値を示した. SPに対するHGFの接着は100 ng/ml濃度のSP添加15分, 60分, 120分, 240分の培養後において, SP添加群で対照群と比較して有意に高い値を示した. またSPはHGFのERKシグナルのリン酸化を増強した. EMD由来合成ペプチドであるSPはHGFの増殖能と接着能を促進することによって, 歯周組織の創傷治癒を促進し, 歯周外科治療に有用である可能性が示唆された.
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