研究実績の概要 |
目的:COX-2はアラキドン酸からプロスタグランジン合成への律速段階を調節する酵素である.1995年のGiovannucciらの疫学的研究で長期間のアスピリン服用によって大腸癌が40から50%減少すると報告されてから,これまで様々な癌腫でCOX-2の発現誘導が確認されている.腫瘍組織に誘導されたCOX-2は,アポトーシスを抑制し,血管新生を増強させ,腫瘍細胞に浸潤能を獲得させる.さらにプロスタグランジンE2を誘導し,免疫抑制を惹起することで癌の増殖,浸潤,転移に関与していると考えられている. 今年度われわれは舌扁平上皮癌についてCOX-2代謝に加えその下流酵素(PGES)および受容体(EPレセプター)の発現を免疫組織染色により検討し臨床病理所見との関連性を検討した.対象:舌癌N0症例27例を対象として,切除標本のホルマリン固定切片を用いた.結果:対象27例中全例でCOX-2の発現が認められた.また,COX-2高発現が認められた症例16例中12例にPGESの高発現が認められた.EPレセプターについては,EP2RとEP4Rに有意に高い発現が認められた.COX-2,PGES,EP2R,EP4Rの高発現と頸部リンパ節後発転移の間に有意な相関を認めた.考察:免疫染色の結果から舌扁平上皮癌では,特に頸部リンパ節後発転移においてEP2R,EP4Rを介したPGES,COX-2の発現が関与している可能性が示唆された.結語:舌扁平上皮癌において,COX-2とPGESおよびその受容体であるEP2R,EP4Rの発現が認められた.COX-2選択的阻害薬がその副作用の面で問題が生じたことから,PGESやEP2R,EP4Rが新たな治療の標的となる可能性があり,今後はmRNAレベルでの検討を行う予定である.
|