研究課題/領域番号 |
16K20560
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 直子 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医 (10569635)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪由来間葉系幹細胞 / 免疫抑制 / 制御性T細胞 / 免疫寛容 |
研究実績の概要 |
脂肪組織由来幹細胞(ASC)は、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)に代わる新たな再生医療の細胞源として注目を集めている。しかし、通法にて採取したASCは、採取時にASC以外の血球系や他の間葉系細胞の混入も見られることから、ASCを純化する技術の獲得は重要である。近頃、ASCの分離マーカーが同定されつつあるが、詳細な機能解析までには至っていない。したがって、ASCの純化法と培養法を確立し、幹細胞が本来有する免疫寛容を検証するとともに、再生医療の新たな移植細胞源としてのASCの有用性評価を本研究の目的として、当年度は、in vitroにおけるASCの純化・培養法の確立および特性評価を実施した。具体的には、マウス鼠径部脂肪組織より間葉系細胞を通法により分離したのち、同細胞集団を抗CD31, 34, 45, 90, 105, 146抗体にて染色をおこなったのち、FACSを用いてソーティングし、CFU-Fアッセイ、細胞増殖試験、多能性評価をおこない、これら細胞がBM-MSCと同程度に幹細胞特性を有していることを確認した。また、これらの細胞を用いてASCの恒常的Foxp3発現を維持するin vitro 培養系の確立を目的として、まず初めに、ASCが免疫抑制作用を有することを検証した。方法として、培養ASCにマウス脾臓からFACSを用いて、CD3およびCD3/4陽性で分画されるT細胞を単離したのち、共培養をおこない、T細胞をCD8陽性に分化促進させる試薬コンカナバリンAを添加したときのT細胞変化を検証した。その結果、ASCはCD8陽性分画への分化を抑制させることが確認されため、ASCの免疫抑制効果を示唆した。さらに、ASCの免疫抑制に寄与する因子の同定をサイトカインアッセイにより検索をおこなったところ、いくつかの因子が検出されたため、これらの因子を用いて現在検証しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪組織は採取しやすい反面、同組織からASCを分離・培養することは難しく、分離技術の習得に時間を要したため、ASCの機能評価を目的数実施することができなかった。しかしながら、最低限の有意性をもつ結果を得たことから、ASCが放出・分泌する因子の検出まで可能となった。また、当初使用を予定していた分離マーカーがBM-MSCに限定したマーカーであることが試験結果から明らかとなったため、先行研究にあるマーカーから組み合わせて分離をおこなった。それにより、BM-MSC同様にASCも幹細胞特性を有することが判明した。また、免疫抑制効果の検証においても、現在臨床研究で使用報告されているマーカーとの比較検討を行った結果、本研究で分離したASCの抗免疫効果が大きいことが判明した。これにより、ASCの抗免疫効果の詳細、精密解析が今後実施されるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、脾臓より採取した組織よりCD3陽性T細胞、CD3/4陽性Naive T細胞、CD3/8陽性細胞障害性T細胞、CD4/25陽性制御性T細胞を分離し、これらの細胞変化を詳細に解析するために、抗CD3/38抗体およびLPSを用いて、よりT細胞が活性化した状態でのASCの免疫抑制効果の検証をおこなっていく。また次年度は最終年度となるため、これまでに得たASC分泌因子を用いて、ASC非共培養下での検証をおこなっていく。これらの結果を踏まえて、ASC非培養および非移植による免疫抑制を担当する制御性T細胞の効率的な増殖および細胞障害性T細胞増殖の効果的な抑制を図るための検討、検証をおこなっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度実施計画において、脂肪組織より間葉系幹細胞の分離培養技術の確立を目指して実験を遂行してきたが、分離方法や分離までに要する時間、温度変化により、その後の培養に大きく影響することが判明したことから、技術確立までに時間を要し、その結果、調達使用予定であった抗体等試薬量が減じたため。さらに、サイトカインアッセイによって検出した因子がベクターを用いずに組み換えタンパクおよびインヒビターにより代替できることが判明したことにより、当初予定より資金拠出が減じたため、助成金を繰り越すことになったと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への繰り越しに関しては、前年度購入予定だった抗体やアッセイキット等の試薬類の購入に充当させることで、また、本年度参加を予定している学会へ充当させることで繰り越し分を償却できるものと考える。
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