in vitroのマウス胎仔全胚培養法による低酸素状態が複数の遺伝子発現を抑制し、顔面形成へ影響を与え、顔面突起の癒合不全(唇裂)を生じることは、研究代表者により明らかとされていた。一方、in vivoでの低酸素環境下での妊娠マウス母獣の飼育法は既報で確立を見ており、専用のチャンバーを利用した酸素濃度9%の低酸素状態(通常約21%)で妊娠マウス母獣(胎齢10.5日)を24時間飼育した。 結果、肉眼的な形態異常はin vitroでのマウス胎仔全胚培養と同様の結果を生じ、かつ、免疫組織化学染色では血管新生の亢進、細胞増殖の減少、細胞死の増加が確認された。 さらに得られたin vivoでのサンプルを免疫組織化学染色で確認したところ、リン酸化ヒストンの発現で観測される細胞増殖は、顔面突起において右側の方が左側よりも減少していた。細胞死を患側するカスパーゼの発現は右側の方が多かった。これは、細胞増殖および細胞死に左右差が生じることを示唆している。 我々の過去の報告ではin vitroの低酸素環境で右側に唇裂を多く認める結果であった。これを踏まえると、in vivoの低酸素環境で得られた上記の結果も矛盾しないものである。 唇裂は体表に現れる先天異常としては最も高頻度の疾患のひとつでありながらも原因となる要素が多岐にわたり、いまだ明快な原因究明はなされていない状態である。今回の実験結果は既存の実験系から新しい実験モデルを構築できており、唇裂はもともと発症に左右差のある先天異常であるため、それに対する解析として非常に示唆に富んだ方法となりうることが明らかとなった。
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