研究実績の概要 |
近年、癌幹細胞理論が提唱され、癌幹細胞が治療抵抗性や再発に重要な役割を果たしていると考えられている。また、癌幹細胞がその幹細胞の性質を維持するためには、癌細胞周囲微小環境が必要とされ、上皮系腫瘍である扁平上皮癌が、間葉組織で新たに転移巣を形成できるのは、自己複製能をもつ癌幹細胞様の細胞が存在するからだと考えられている。われわれは、過去に癌細胞のエネルギー代謝の変化や低酸素環境に着目し報告してきたが、本研究の目的は、原発巣のみならず転移巣での癌幹細胞の動向を解明し、特異的な癌幹細胞周囲微小環境を変化・抑制させることでリンパ節転移が抑制されるという仮説をもとに新たな知見を得て、より未分化で悪性度の高い癌幹細胞への進行を制御する方法を発見することである。 in vitroの検討で、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株(HSC-3)を継代培養し、通常培養と低酸素培養を行い、酸素条件の違いによる幹細胞性因子(Oct3/4, Sox2, c-Myc, Klf4, Nanog)の発現をReal-time PCRで検討した。また、手術中に採取した臨床検体(原発巣と、同由来の正常組織)を用いて、分化度の違いによる幹細胞性因子の発現をReal-time PCRで検討した。その結果、低酸素培養細胞と、中分化型および低分化型臨床検体で、Oct3/4, Sox2, Nanogの有意な発現増加が認められた。 さらに、後ろ向きに術後経過が調査可能であった患者の病理組織検体を収集し、Nanogを除く幹細胞性因子の発現を免疫染色で検討した。その結果、Klf4の発現上昇が予後(全生存率や疾患特異的生存率)の不良と関連する傾向が示唆された。
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