研究課題/領域番号 |
16K20591
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉田 遼司 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (10632458)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / マイクロRNA / エクソソーム / 治療抵抗性 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma: OSCC) は口腔癌の80%を占める疾患で、医療技術の進歩にも関わらず治療成績の劇的な向上には至っていない。その原因として腫瘍が有する浸潤・転移能や抗癌剤・放射線抵抗性の存在があり、その制御機構に腫瘍微小環境が関わることが明らかとなっている。近年、その腫瘍微小環境の調節に細胞外分泌小胞に内包されたmicroRNA(エクソソームmiRNA)が関わり、癌の転移・治療抵抗性の獲得・維持に寄与することが明らかとなってきた。そこで、本研究ではエクソソームmiRNAを中心とする新たなOSCC悪性形質制御ネットワークを解明し、口腔扁平上皮癌の新規診断・治療法の確立を目指すこととした。 まず、可能な限り背景因子(性別、年齢、原発巣、TNM分類など)を合わせた上で、当科で化学放射線療法を行ったOSCC患者から治療に対する治療効果が無効であった群(5例)、著効した群(5例)を抽出した。治療開始前に採取し保存しておいた血清中のmiRNA発現をマイクロアレイ(3D-Gene Human miRNA Oligo chip - 4 plex)で解析し、特徴的なマイクロRNAプロファイルを見出した。 化学放射線治療抵抗性あるいは遠隔転移を起こした症例において高発現しているマイクロRNAを複数認めたことから、アレイ解析で発現変動を認めたエクソソームmiRNAは高悪性OSCCの病態に深く関わる可能性が示唆された。そこで、アレイ解析で候補となったmiRNAがOSCC患者の臨床データと相関を示すか否かを、臨床サンプルを用いたリアルタイムPCR法で解析し、各種臨床情報との関連を統計学的に検討した。結果、複数のmiRNAが化学放射線療法に対する組織学的治療効果や肺転移と相関することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はOSCC患者において悪性度の反映しうる循環マイクロRNAの同定に成功し、臨床病理学的特徴とも一定の相関があることを見出した。この成果は専門家が多く集まる各種学会(日本頭頸部癌学会、日本癌学会)などにおいて発表を行い、今後研究を進める上で有益な情報交換を行えた。 一方、本来は更に当科で保有する放射線抵抗性OSCC細胞株や高転移性OSCC細胞株の培養上清を用いて検証を行う予定であったが、4月に発生した熊本地震の影響で培養実験などの各種実験系を行うことが困難であったため、その点は未だ検証段階である。また、同様の事由から、28年度に着手を予定していた、『候補miRNAの強制発現による腫瘍細胞、間質細胞の表現型変化の解析(in vitro)』、『OSCC細胞由来エクソソームによる間質細胞の表現型変化の解析(in vitro)』、『マウス移植モデル用いたエクソソームmiRNAの機能解析』などについても今後順次着手していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、28年度中に着手予定であった『候補miRNAの強制発現による腫瘍細胞、間質細胞の表現型変化の解析(in vitro)』、『OSCC細胞由来エクソソームによる間質細胞の表現型変化の解析(in vitro)』、『マウス移植モデル用いたエクソソームmiRNAの機能解析』などについて研究を進める。 ここで問題となるのは候補miRNAの強制発現による間質細胞の表現型変化の解析についてである。当科で保有する各種間質細胞(繊維芽細胞、マクロファージ)に候補miRNAを強制発現させる実験系は思うように進んでおらず、今後は遺伝子導入方法などの再検討が必要であると考えている。 一方で、OSCC細胞由来のエクソソーム抽出には成功しており、そのエクソソームを蛍光標識して間質細胞に取り込ませることも可能であることを検証済みである。したがって、腫瘍由来エクソソームによる間質細胞の形質変化を重点的に進めながら他の実験も並行して行っていく予定としている。
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