研究課題
口腔扁平上皮癌 (Oral squamous cell carcinoma: OSCC) は口腔癌の80%を占める疾患で、医療技術の進歩にも関わらず治療成績の劇的な向上には至っていない。本研究ではエクソソームmiRNAを中心とする新たなOSCC悪性形質制御ネットワークを解明し、口腔扁平上皮癌の新規診断・治療法の確立を目指した。前年度に行ったアレイ解析と臨床サンプルを用いた解析の結果、複数のエクソソーム由来miRNAがOSCCの化学放射線療法に対する組織学的治療効果や肺転移と相関することを見出した。本年度は更に解析を進め、血中miR-1290の発現が患者予後と相関することを見出した。以上の結果から、高悪性OSCCが分泌するエクソソーム内のmiRNAがOSCCの病態形成に関わっている可能性が示唆された。また、血中miRNAがOSCCの新たな診断ツールになり得ることを示す意義ある成果であると考えられた(現在投稿中)。エクソソームが腫瘍間質に与える影響を明らかにするために、当科で保有する放射線耐性OSCC細胞株からエクソソームを抽出し、代表的な腫瘍間質細胞である線維芽細胞(GT-1不死化ヒト歯肉由来線維芽細胞)の培養液に添加した。その結果、一部の細胞に腫瘍関連線維芽細胞(CAFs)のマーカーであるα-SMAの発現が認められた。CAFsはOSCCの治療抵抗性や転移に関係していることが見い出されており、この結果はエクソソームによるCAFsの誘導がその一端を担っている可能性を示唆するものと考えられた。また、本研究期間中に有意差を見出すには至らなかったが、放射線耐性OSCC細胞株のエクソソームで処理したOSCC細胞では放射線耐性に変化が認められ、本研究の仮説である「エクソソームによる細胞間情報伝達」が存在する可能性が示唆された。今後この点について更に検討を加えていく必要があると考えられた。
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