研究課題/領域番号 |
16K20598
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大野 幸 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (00535693)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 三叉神経系 / 痛覚神経回路 / 下降抑制系 / 時間生物学 |
研究実績の概要 |
「痛み」は生体内外からの警告のサインであり、傷害を受けた生体に安静を促し創傷治癒を早めるためにも必要な感覚である。しかし、目的を達した後にも残存する「痛み」は、正常な活動を制限し生存にとって不利にも働く諸刃の剣であるため、生体には痛みを伝える機能だけではなく、抑える機能も備わっている。痛みの神経回路が他の感覚回路と比べてユニークな点は、痛みの伝達と抑制という真逆の機能が1つの感覚を生み出す回路に含まれているところにある。本研究では、伝達系と抑制系の相互媒介の要となる回路に的を絞り、回路の最小単位である単一ニューロンレベルにまで分解して詳細な解析を行い、ボトムアップ的に痛みのメカニズムを解明することを目的としている。 昨年度は、実験の作業効率と今後の発展(遺伝子組換え動物の導入)を考え、実験動物を当初予定していたラットからマウスに切り替え、マウスでの実験手技の習得および条件検討を行った。また、痛みの感じ方には日内変動があるとする先行研究が発表されたことから、痛みの伝達系と抑制系それぞれにも、1日の中でリズムがあるのではないかと考え、本研究においてもマウスの生体リズムを把握した上で実験を遂行するよう時間生物学的手法を取り入れた。具体的に今年度は、明期と暗期のそれぞれにおいて、10 週齢の雄性マウスの左側上口唇(三叉神経第二枝領域)にホルマリン(5%、10μl)を皮下注射し、灌流固定後に脳を取り出し、凍結スライス切片を作成し、三叉神経脊髄路核尾側亜核におけるc-Fosの発現動態を観察した。免疫陽性細胞数をカウントし、統計学的な検討を行った結果、マウスの休息期の明期と比べて活動期の暗期の方がc-Fosの発現は有意に多いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
痛みの感じ方には日内変動があるとする先行研究が発表されたことから、目的とする三叉神経系における疼痛伝達あるいは抑制に関連するタンパクの発現量にも日内変動が予想される。本研究を遂行するにあたり、まずはマウスの生体リズムを把握する必要が必須であると考え、当初の研究計画に時間生物学的手法を取り入れたことにより、研究の遂行に遅れが生じている。加えて、本年度は研究の絶対時間の確保が難しく、そのことも遅れの一因と成っている。
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今後の研究の推進方策 |
時間生物学的手法に基づいたマウスの飼育方法や、実験手技を習得後、予備実験や関連実験は終了した。今年度からは引き続き当初の目的であった三叉神経系での解析を進めていく方針である。 1)三叉神経節における時計遺伝子の発現について:三叉神経脊髄路核尾側亜核(Sp5C)へ逆行性トレーサーを注入し、三叉神経節で逆行性標識されたニューロンと時計タンパクPER2発現の共存関係および日内変動を検討する。 ①マウスを定位脳固定装置に固定し、Sp5Cへ逆行性トレーサー(CTB)を注入する。その際、注入部位の座標や注入濃度、注入量などの条件検討を行う。②三叉神経節において逆行性に標識されたニューロンを痛みに関係するニューロンとして同定し、蛍光免疫染色により可視化する。③②のニューロンとPER2の蛍光二重染色により共存関係を確認し、日内変動を検討する。 2)摘出済みの三叉神経節における痛覚関連タンパクの発現の検討:マウスの休息期(明期)と活動期(暗期)のそれぞれにおいて、侵害刺激を加えた後で摘出した三叉神経節を用いて、CGRPなどの疼痛関連タンパクの発現量を比較検討する。 3)以上の結果をまとめ、学会報告及び論文発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、前年度からの繰越金額が多かったため、繰越し分の差額が生じた。加えて、今年度は研究時間の確保が難しく、実験自体が一時中断しており、そのことも繰越差額が生じた一因である。次年度は、研究継続に必要な経費(実験試薬、動物維持管理費)に加え、学会旅費や論文掲載代などに使用する計画である。
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