「痛み」は生体内外からの警告のサインであり、傷害を受けた生体に安静を促し創傷治癒を早めるためにも必要な感覚である。しかし、目的を達した後にも残存する「痛み」は、正常な活動を制限し生存にとって不利にも働く諸刃の剣であるため、生体には痛みを伝える機能だけではなく、抑える機能も備わっている。痛みの神経回路が他の感覚回路と比べてユニークな点は、痛みの伝達と抑制という真逆の機能が1つの感覚を生み出す回路に含まれているところにある。本研究では、伝達系と抑制系の相互媒介の要となる回路に的を絞り、ボトムアップ的に痛みのメカニズムを解明することを目的としている。 本研究を開始するにあたり、痛みの感じ方には日内変動があるとする先行研究が発表されたことから、痛みの伝達系と抑制系それぞれにも、1日の中でリズムがあるのではないかと考え、本研究においてもマウスの生体リズムを把握した上で実験を遂行するよう時間生物学的手法を取り入れた。 2018 年度に行ったマウスの左側上口唇(三叉神経第二枝領域)にホルマリンを皮下注射した実験の結果、三叉神経領域の痛覚には昼夜差が認められることがわかった。2019年度はこの結果を受け、その昼夜差を生み出すメカニズムを解明するため、痛みの伝達に関係するトランスデューサーやトランスミッターの発現についてRT-PCRで解析した。その結果、昼夜で発現量に差を認めたものが確認された。
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