固形腫瘍である口腔癌を取り巻く微小環境は浸潤・転移に重要な役割をはたしているものと考えられる。がんの微小環境の成立には細胞外マトリックスのみならず低酸素環境や脈管新生を誘導する因子や癌細胞が分泌するサイトカイン、あるいは間質細胞から癌細胞の運動能を増殖する因子などもあると推察される。しかしながら、口腔癌の微小環境の成立に寄与するkey moleculeはいまだに不明である。 申請者らは網羅的遺伝子発現解析により、口腔癌の進展に関与する新規因子としてzinc finger AN1-type containing 4 (ZFAND4) を見いだした。臨床検体を用いた免疫組織化学において、ZFAND4は口腔癌細胞の細胞質に発現することでリンパ節転移ならびに遠隔転移を促進することが明らかとなった。さらにZFAND4を高いレベルで発現する症例はそうでない症例と比較して有意に予後不良であり、多変量解析でZFAND4の発現レベルは独立した予後不良因子となった。 細胞株を用いたin vitroの検討では、ZFAND4は種々の分子の発現や活性化を制御することで口腔癌細胞にとって好ましい微小環境をつくりだし、浸潤ならびに転移を促進することを見いだした。 ZFAND4の機能を抑えることで口腔癌細胞にとって好ましい微小環境を破壊できる可能性があり、診断・治療におけるあらたな分子標的となることが期待される。
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