これまでに、摂食することで、延髄のプロラクチン放出ペプチド産生ニューロンが活性化され、視床下部ではオキシトシン産生ニューロンが活性化し、摂食が終了するということが報告されている。ストレス負荷と同時に、咀嚼を活性化することで、ストレスに対する全身性および脳内応答領域の反応が抑制して働くことが明らかとなってきている。そこで、本研究では、ストレス環境下における咀嚼器官の活性化は、視床下部をはじめとして脳内の特定部位が活性化することで、ストレス反応を緩和するという仮説を構築した。実験にはストレス環境モデルとして、拘束ストレスを使用した。また、抗ストレス群として拘束ストレス時に咀嚼させる実験モデルを用いた。ストレス下において咀嚼器官が活性化することで、ストレス反応が緩和されているかを検証する実験を行った。拘束ストレス環境下で咀嚼させることで、ストレス反応を受けて活性化するマーカーの分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼであるリン酸化細胞外シグナル調節キナーゼ(pERK)の発現が視床下部の室傍核で有意に減少していた。また、帯状皮質の3領域において前部、中部および後部でのpERKを免疫組織化学的に染色し活性化した細胞数を確認した。前帯状皮質では拘束ストレス下での咀嚼群においてpERKの免疫反応性細胞の数は有意に増加していた。 以上の結果より、咀嚼することで、視床下部の室傍核は活性化され、前帯状皮質では咀嚼はストレス応答性細胞の増加を阻害することでストレス効果の減少に関与しているということが検証された。
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