iPS細胞の分化誘導環境を実際に再生を目指す組織・臓器自体に求めることで分化誘導が可能ではないかという仮説の下、目的臓器の凍結切片上でiPS細胞を培養し分化誘導した。具体的には、マウスから肝臓、脳、脊髄を摘出し、それぞれの凍結切片を作製した。その凍結切片上にiPS細胞を播種し、9日間培養した。その結果、肝臓凍結切片上で培養したiPS細胞は肝細胞へ分化誘導されること、また脳、脊髄凍結切片上で培養したiPS細胞は神経系細胞へ分化誘導されることを見出した。これは異なる体細胞由来のiPS細胞や異なる樹立方法のiPS細胞4株でも同様の結果が得られ、本誘導法が普遍的にすべてのiPS細胞の分化誘導に応用できる可能性が強く示唆された。 そこでさらに、本誘導法のメカニズムを解明することを目指して、①液性タンパク質因子(増殖・分化因子)、②細胞外基質(組織の微細構造を含む)および③microRNAの3つの観点から検討を行った。具体的には、マウスから肝臓、脳、脊髄から作製した凍結切片を4%パラホルムアルデヒドまたは冷アセトンにて固定することで、液性タンパク質因子を固定し、その作用を阻害し、分化誘導を行った。4%パラホルムアルデヒド固定の場合は、固定した後、残存するアルデヒドをグリシンにて不活化した。その結果、未固定凍結切片上での誘導効率は固定凍結切片上での誘導効率と比較し、優位に高い誘導効率を示した。 このことより、凍結切片より得られる液性タンパク質が分化誘導に関与している可能性が示唆された。
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