研究実績の概要 |
再生医学の進展により、様々な組織や器官の再生が可能となってきた。歯の再生に関しては、器官原基法の応用や、iPS細胞からエナメル芽細胞の人工誘導に成功したという報告や、乳歯由来歯髄細胞から小分子化合物を用い、歯髄幹細胞を人工誘導する技術開発が進んだ。これらの成果により、歯を構成する細胞ソースの問題は解決に近づいたが、個別の細胞に誘導する為には、他の細胞との共培養や異種生物から作成した増殖因子等の蛋白成分を用いる必要があり、これらの分化誘導過程において異種由来の成分の混在についても解決すべき問題として残っている。歯の発生に関して神経栄養因子の一つであるNeurotrophin 4(NT-4)が歯原性上皮細胞においてTrkB受容体を介してその増殖を抑制、分化を促進し、iPS細胞からエナメル芽細胞に分化誘導させる際にも、異種由来の歯原性上皮との共培養を応用するが、この際にもNT-4が必須の分子であることが報告されている。そこで、NT-4の細胞受容体であるTrkBに特異的に作用する小分子化合物であるLM22A-4、さらにTrkB受容体シグナルの阻害剤である小分子化合物を用いることで、歯原性上皮細胞の分化の制御を異種成分が含まれない状態でできるのではないかと考えた。本研究結果により、歯原性上皮細胞株にLM22A-4を添加して培養すると、リコンビナントNT-4を用いた場合と同程度にameloblastin,amelogenin,enamelinなどのエナメル芽細胞分化マーカー遺伝群の発現上昇が認められた。また、歯原性上皮細胞に対してLM22A-4で刺激後、ERK1/2のリン酸化をWestern blotting法を用いて解析した結果、ERK1/2のリン酸化が認められた。以上からLM22A-4はERK1/2のリン酸化を介した経路で歯原性上皮細胞の分化誘導を促進していることが示唆された。
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