昨年度の成果として、マウス咬筋付着部位において、身体運動刺激付与群における骨塩量が対照群と比較して有意に増加しており、運動刺激に伴い神経系を介した作用が咀嚼筋に引き起こされ、作動した咀嚼筋運動が成長期の下顎骨の形態変化に影響を与えた可能性が示唆された。 本年度も引き続き成長期に当たるマウスモデルを用いて生化学的解析を行った。また、動物実験に加えて、ヒト標本を用いた顎顔面骨の形態学的検討を行った。 動物実験においては、成長期に当たる4週齢のC57BL/6 miceを用い、実験群を2群に分け、対照群および身体運動刺激付与群とした。2週間後の6週齢時に屠殺を行い、生化学的解析(血清オステオカルシンやTRACP-5bなどの骨代謝マーカーおよびストレスマーカーであるコルチコステロンの評価)を行ったところ、身体運動刺激群において血中ストレスホルモンが有意に減少していた。 また、ヒトにおける咀嚼刺激と顎骨形態の関連を検証するべく、国立科学博物館人類研究部所属のヒト標本を用いた形態計測を行った。標本は不正咬合が増加してきた江戸時代における顎顔面骨を用い、身分階級間における形態学的差異の検討を行ったところ、階級間において顎顔面骨形態の有意な差異が、特に下顎骨の咬筋付着部位付近に関して認められた。さらに、咀嚼パターンが異なるとされる現代日本人と白人(ラテン人)女性間における顎顔面骨格の放射線学的解析を行ったところ、人種間において有意な形態学的差異が認められた。 以上の事から、身体運動刺激に伴い神経系を介した作用が咀嚼筋に引き起こされる場合、作動した咀嚼筋運動が成長期の下顎骨の形態変化に影響を与える可能性が示唆された。
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