研究実績の概要 |
本研究の目的は, 歯科矯正治療時における歯根吸収の発生の一因を解明することである。歯根吸収は根尖から起こることが多く,歯根吸収の発現には多因子が関与しているとされている。歯根吸収の原因を大別すると矯正歯科治療に関わる外因子と患者自身に関わる内因子に分けられるが,明確な原因は未だ解明されてない。 セメント質には有細胞セメント質と無細胞セメント質があり,過去の研究において有細胞セメント質を多く含む根尖部セメント質は無細胞セメント質を多く含む歯頚部セメント質と比較して,硬さが柔らかく,ミネラル含有量が減少し,さら歯根吸収の発生が多く認められると報告されている。本研究では, セメント質の物性, 化学組成および構造が歯根吸収の発生に関与しているという仮説を基に抜去歯を用いて, 根尖部のセメント質の硬さ(ビッカース硬さ)とミネラル含有量の測定を行い, その関係性について検討する。さらに, セメント質の硬度の異なる抜去歯に破骨前駆細胞を播種し吸収の程度を比較検討することで歯根吸収とセメント質の物性, 化学組成, 構造との関係性を解明する。さらに実際に臨床の場で歯根吸収の発生の予測を可能にするためエナメル質とセメント質の硬さの相関性についても検討する。これより, セメント質の硬度が低いものが, 高いものに比べて歯根吸収が惹起されやすいという仮説が証明されれば, 歯根吸収発生の一因が解明され, 歯根吸収の抑制や矯正治療前の歯根吸収発生リスクを回避する一助となると考えられる。 平成28年度では, エナメル質及びセメント質の硬度には個体差があり, エナメル質と根尖部セメント質の硬度には正の相関があることが確認された。平成29年度においては根尖部セメント質の硬度と歯根吸収の関連性について検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の計画では、抜去歯(矯正患者の便宜抜歯された健全歯)を用いてセメント質とエナメル質の硬度(ビッカース硬さ; HV)を測定しその相関性と, 年齢および性別とセメント質の硬度の関連性について検討し, その硬度の違いにより歯を分別し, 各郡においてセメント質の化学組成ならびに構造を測定しその関係性を検討する予定であった。 矯正歯科治療のため抜歯を要した患者31名(平均年齢±標準偏差は19.51 ± 6.64歳)から上顎第一小臼歯を50本採取し, エナメル質及びセメント質のHVを測定した結果、50本のエナメル質およびセメント質のHVには個体差があり, エナメル質と根尖部セメント質のHVには正の相関が認められ, エナメル質とセメント質には相関性があることが確認できたが, その化学組成については次年度に検討することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の計画では、硬度の違いにより歯を分別し, 各群においてセメント質の化学組成ならびに構造を測定しその関係性を検討する。さらに, ヒト破骨前駆細胞(hOCP)(Takara bio, Inc.)をプロトコールに従い培養し, 根尖部セメント質のビッカース硬さが標準偏差より小さいもの, 平均値, 標準偏差より大きいものの3群に分け, 10日間培養し, Pit formation assayを行い, 破骨細胞の分化及び活性能について検討する。破骨細胞により吸収された吸収窩の面積は走査型電子顕微鏡(S3400, 日立)にてランダムに選択された領域で測定し,ソフトウェアを用いて解析する(Imaris, Bioplane Co.)予定である。
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