研究実績の概要 |
本研究の目的は, 歯科矯正治療時における歯根吸収の発生の一因を解明することである。歯根吸収は根尖から起こることが多く,歯根吸収の発現には多因子が関与しているとされている。セメント質には有細胞セメント質と無細胞セメント質があり,過去の研究において有細胞セメント質を多く含む根尖部セメント質は無細胞セメント質を多く含む歯頚部セメント質と比較して,硬さが柔らかく,ミネラル含有量が減少し,さらに歯根吸収の発生が多く認められると報告されている。そこで本研究では,根尖部セメント質の物性と化学組成に着目し,根尖部セメント質のビッカース硬さおよび化学組成が歯根吸収の発生に及ぼす影響について検討した。 エナメル質及びセメント質のビッカース硬さ(HV)測定では,ダイナミック超微小硬度計を用い測定した。Pit formation assayでは,根尖部セメント質にヒト破骨前駆細胞を播種し,培養した。その後電子顕微鏡を用い,根尖部セメント質の吸収窩面積を測定し,HVとの相関を調べた。根尖部セメント質のCa, Pの定量分析では,走査型電子顕微鏡を用い,HVとCa/P比の相関について検討した。 その結果,1)50本のエナメル質およびセメント質のHVにおいて個体差があることが認められた。2)エナメル質と根尖部セメント質のHVには正の相関が認められた。 3)Pit formation assayでは,根尖部セメント質の硬さに反比例し,吸収面積は小さくなり,有意な負の相関が認められた。4)Ca, Pの定量分析では,根尖部セメント質の硬さに比例し,Ca/P比は大きくなり,有意な正の相関が認められた。 以上の結果から,セメント質の硬さは個体差が認められ,根尖部セメント質の硬さ及び化学組成が歯根吸収の発生に影響を及ぼすことが考えられた。
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