研究課題/領域番号 |
16K20657
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
矢口 学 日本大学, 松戸歯学部, 助手(専任扱) (90732181)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダウン症候群 / 歯周病 |
研究実績の概要 |
Down症候群(DS)は歯周病の罹患率が高く,健常者と比較して早期に発症し進行が速く重篤であることが知られているが,DSにおける歯周疾患の発症と進行の機序は未だ不明な点が多い.これまでに我々は,炎症性サイトカイン発現誘導において中心的役割を果たす転写因子NF-κB p65サブユニットについて検討し,歯周病原菌であるP. gingivalis由来LPS刺激によって健常者由来歯肉線維芽細胞(NGF)と比較してDS由来(DGF)ではリン酸化が高くなることを明らか にしている.近年,NF-κBの活性化を抑制する分子機構について注目されている.なかでもユビキチンリガーゼE3としての機能を持つPDZ and LIM domain protein 2 (PDLIM2) は,核内に移行した NF-κBに結合してユビキチンを付加し,プロテアソームによるNF-κBの分解を誘導することで炎症反応を抑制することが報告されている.これらのことから, DSにおける重篤な歯周病の惹起と進行にPDLIM2が関与している可能性が推察される.しかしながら,これまでに歯肉線維芽細胞においてPDLIM2の存在を明らかにした報告はない.従って,ヒト歯肉線維芽細胞株(HGF-1)を用いてP. gingivalis由来LPSに対するPDLIM2の発現変動を検討することで本研究を遂行するための足がかりとした. その結果,HGF-1において恒常的にPDLIM2が発現していることが明らかとなり,LPS刺激によりPDLIM2発現およびタンパク発現は濃度依存的に有意に減少した. 以上より,ヒト歯肉線維芽細胞においてもPDLIM2が炎症応答を抑制的に制御している可能性が示された.さらに興味深いことに,NGFと比べDGFではPDLIM2発現が低い傾向を示したため,DGFにおける異常な炎症応答にPDLIM2が関与する可能性が考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Down症候群 (DS) における歯周病の有無と免疫担当細胞の機能異常の関連性について明らかにする目的で,初年度よりフローサイトメトリー法を用いてDS患者の末梢血中における免疫担当細胞の分画解析を行う予定であったが,サンプル採取が困難であり実施できていない状況である. しかしながら,NF-κBの活性化を抑制するPDLIM2が歯肉線維芽細胞においても炎症応答を抑制的に制御している可能性を示す新たな知見が得られたことは,本研究計画を展開していくにあたり,重要な足がかりになったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果より,ヒト歯肉線維芽細胞株であるHGF-1において恒常的にPDLIM2が発現していることが明らかになった.しかしながら,ヒト歯肉線維芽細胞におけるPDLIM2の詳細な働きについては未だ不明であるため,siRNAによるPDLIM2発現ノックダウンの実験条件を確立し,P. gingivalis由来LPS 刺激に対するNF-κB p65の核移行についてウェスタンブロット法を用いて確認するとともに,real time PCR法による炎症性サイトカインの遺伝子発現解析を行う.また,PDLIM2ノックアウトマウスを用いて,P. gingivalis感染による歯周病モデルマウスを作製し,in vivoでの検討も予定している. さらに,NF-κBの活性化を抑制するPDLIM2の遺伝子発現が健常者由来歯肉線維芽細胞(NGF)と比較してDown症候群由来(DGF)では恒常的に低い傾向を示すことが明らかになったことから,Down症候群(DS)における重篤な歯周病の惹起と進行にPDLIM2が深く関与している可能性が高いと考えられる.臨床サンプル数を増やし,DS患者における歯周病の有無や重症度とPDLIM2の関連性について遺伝子発現解析を含めた検討を行っていく.また, PDLIM2はSTATを不活性化することにより炎症反応に対して抑制的に働くだけではなく,その後の修復期においては,TGFβ-Smadのシグナルを不活性化して,組織修復が過剰にならないように創傷治癒反応を制御しているとの報告もあることから,スクラッチアッセイを行い,DGFにおける創傷治癒に及ぼすPDLIM2の影響についても検討する. 一方,課題である末梢血サンプル採取については引き続き対応策の検討を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は細胞培養ならびに遺伝子発現ならびにタンパク発現解析が主体であり,経費の主要な用途は,主に消耗品である.培養培地,抗生物質,ウシ血清や培地用ディッシュ,ピペットやチップなどのプラスチック器具,real time PCR関連試薬類などに使用した. 一方,年度末に納期未定だった抗体の購入を中止したことにより差額が生じた. 次年度は,使用頻度の高い培養培地,抗生物質,ウシ血清や培地用ディッシュ,ピペットやチップなどのプラスチック器具,real time PCR関連試薬類などの消耗品に加えて,タンパク発現解析で使用する抗体などに使用する.
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