研究課題/領域番号 |
16K20666
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
水谷 幸嗣 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60451910)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯周病 / 糖尿病 / 再生療法 / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
糖尿病や肥満が、歯周病の悪化に影響を及ぼし得ることは、多くの疫学的調査ならびに動物実験によって示されているが、その詳細なメカニズムは未だ明らかにはされていない。歯周組織も、糖尿合併症として血管障害がみられる臓器と同様に、糖尿病や肥満によるインスリン抵抗性の発現と、それに伴う血管内皮機能不全が起きていると考えられる。本研究では、歯周組織におけるインスリン抵抗性が歯周組織の治癒および再生療法に及ぼす影響について糖尿病モデル動物と臨床サンプルを用いて検討する。 まず、歯周組織再生療法への影響をin vivoで評価するために、糖尿病モデルラットに外科的に作製した骨欠損モデルにエムドゲインを用い、歯周組織再生療法の効果を解析する。マイクロCTにより欠損部の治癒状態を3次元画像にて観察する。そして治癒過程にある欠損部組織でのeNOS,血管内皮成長因子(VEGF)などの血管新生関連マーカー、その他の成長因子や、Ⅰ型コラーゲン,Runx2,OCN,Osxなどの骨代謝マーカーのmRNA発現レベルをリアルタイムPCRにて計測する。連続組織切片による組織学的評価ではセメント質の再生量の計測を行う。 次に歯周組織でのインスリン抵抗性の発現と組織再生におよぼす因子を検討するために、ex vivoにて糖尿病モデルラットの血管を含んだ歯肉のインスリンシグナルを解析する。更に、実験動物での所見が人においても説明可能かを、糖尿病患者の歯肉線維芽細胞のインスリン抵抗性の解析と、エムドゲインによる細胞機能への影響について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病モデル動物への歯周組織再生療法(エムドゲイン)の効果の検討をin vivoにて行い、さらに歯周組織におけるインスリンシグナルの解析を詳細にex vivo にて行うことで、糖尿病が歯周組織再生に影響を及ぼすメカニズムを解明するため、インスリン抵抗モデルとして確立しているストレプトゾトシン誘導型ラットを準備し、研究に用いることとした。 ・外科的歯周炎モデル:全身麻酔下で両側上顎第一臼歯近心に骨欠損(2×2×1mm)を作製し、露出根面のセメント質も除去。片側にはエナメルマトリックスデリバティブ(エムドゲイン®ゲル)を塗布、片側は何も入れずに縫合閉鎖。 ・歯周組織再生の観察と血管新生・骨代謝マーカーの定量:4週間の観察期間中、マイクロCTにより欠損部の治癒状態を3次元画像にて観察する。また、1、2週目に治癒過程にある欠損部組織でのeNOS,血管内皮成長因子(VEGF)などの血管新生関連マーカー、その他の成長因子や、Ⅰ型コラーゲン,Runx2,OCN,Osxなどの骨代謝マーカーのmRNA発現レベルをリアルタイムPCRにて計測する。4週目に安楽死を行った個体では、連続組織切片によるセメント質の再生量の計測を行った。
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今後の研究の推進方策 |
実験動物での所見が人においても説明可能かを、糖尿病患者の歯肉線維芽細胞のインスリン抵抗性の解析と、エムドゲインによる細胞機能への影響について検討するために 糖尿病患者の歯肉の線維芽細胞を用いて研究する。2つのインスリン経路(PI3Kinase-Akt経路とMAPK経路)にどの程度の阻害が歯肉に生じているか解析するため、Akt、Erk活性化にて評価し、歯周組織再生に関与しうる細胞の増殖能、遊走能を評価する。このいずれもAkt、Erkの活性の影響を受けるものであり、高血糖によるインスリンシグナルの阻害がヒトの歯周組織の細胞にも生じうるかを検証する。さらに、この培養歯肉線維芽細胞にエムドゲインによる刺激を加え、高血糖状態での増殖能、遊走能の変化を観察し、低下しているようであれば、その改善効果にPKC阻害剤などが有効か検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究は概ね実施できており、結果の一部は学会発表や論文出版で公表できている。しかしながら、その発 表において受けた指摘や議論に基づき、追加実験を行うことでより論理性の高い解析や、今後の発展性のある研究成果 が得られるため延長を申請する。具体的には、実験的歯周炎の治癒過程の早期の特定のタンパク質の発現が、糖尿病状 態での組織再生に重要な要素になると考えられるため、その検証と発表を行う。
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