研究実績の概要 |
歯周炎と関連するといわれているいくつかの疾患では, 腸内細菌叢のバランスの乱れ(dysbiosis)とそれに伴う腸管透過性の亢進による内毒素血症(endotoxemia)が深く関わっていることが報告されている. 近年申請者の研究グループでは, 歯周病原細菌を経口投与したマウスモデルにおいて, 腸内細菌叢のバランスの変動とともに,血清中エンドトキシンレベルの上昇と, 様々な組織や臓器における炎症の惹起を確認した. 本研究では, このメカニズムのKEYとなるであろう腸管透過性の亢進における, Porphyromonas gingivalisの直接的な影響について明らかにすることを目的とした. 腸上皮細胞に対し, E. coli LPS, P. gingivalis LPS, P. gingivalis W83株生菌にて各々刺激し, 腸管透過性, 炎症性応答, 腸管粘膜防御作用へ及ぼす影響を検討する. またP. gingivalis経口投与マウスモデルにて, 腸管における細胞接着分子の発現, 腸管透過性, 血清中のエンドトキシンレベルの変動について解析し, 腸管透過性の亢進へ及ぼす影響を検討する. 本研究で, 腸上皮細胞に対するP. gingivalis の特異的な作用が明らかになるだけではなく, 今後, 唾液とともに嚥下しているであろう他の歯周病原細菌や, それらにより変動した腸内細菌における腸管・生体への作用を比較検討する際にも応用できる. そして歯周炎と全身疾患との因果関係を検証していくうえで, 常在細菌叢のバランス破綻が生体機能に及ぼす影響を解明する足がかりとなると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト結腸癌由来細胞 (Caco-2) をTranswellに播種し十分に分化させた腸上皮細胞に対し, Transwellの内側であるApical側 (腸管側), 外側であるBasal側 (粘膜固有層側) へ各々E. coli LPS, P. gingivalis LPSにて刺激し, 細胞間接着分子であるZo-1, Occludin遺伝子発現, 腸管透過性の機能的評価を行った. 今年度は細胞培養条件, 経時的条件, 濃度条件, Transepithelial resistance (TER) 測定方法における検討にとどまった. E. coli LPS 100ng/mlで刺激した際のZo-1, Occludin遺伝子発現はApical側への刺激により有意な低下が認められたが, Apical, Basalいずれへの刺激においてもTERはほとんど差がなかった. P. g. LPS 100ng/mlで刺激した際のZo-1, Occludin遺伝子発現はApical側への刺激により遺伝子発現は低下傾向が認められるものの有意差はなく, Apical, Basalいずれへの刺激においてもTERはほとんど差がなかった. P. gingivalis LPS 単独では上皮細胞における物理的バリア機能に及ぼす影響はそれほど大きくないことが示唆される.
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今後の研究の推進方策 |
今後Caco-2に対するP. gingivalis 生菌や他の歯周病原細菌LPSでの刺激, 腸管透過性についてはFITC蛍光標識Dextran透過性測定の追加を検討中である. またP. gingivalis経口投与マウスモデルにて, 腸管における細胞接着分子の発現, 腸管透過性の変動, 腸管粘膜防御作用へ及ぼす影響等について解析し, より多角的な視点から検討を行うことを予定している.
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