研究実績の概要 |
糖尿病関連歯周炎の病態を解明するため,マウス骨細胞株MLO-Y4-A2に最終糖化産物(AGE)と歯周病原細菌P.gingivalis由来LPSによる刺激を与え,培養を行った。昨年度の報告において,AGEとLPSは骨細胞におけるスクレロスチンおよびIL-6の発現を上昇させる事を報告した。本年度は,そのシグナル経路について検討を行った。 まず,siRNAを用いてAGE受容体(RAGE)およびtoll様受容体2(TLR2)のノックダウンを行った。RAGEおよびTLR2をノックダウンした骨細胞において,AGE誘導性,またはLPS誘導性スクレロスチンの発現が有意に抑制された。AGEおよびLPS誘導性スクレロスチン発現において,RAGEまたはTLR2の関与が示唆された。 ウェスタンブロット法において,AGEはJNKおよびERK-MAPKのリン酸化の亢進が認められたが,LPSではp38, JNK-MAPKのリン酸化の亢進が認められた。NF-kBはAGE添加,LPS添加いずれにおいてもリン酸化の亢進が認められた。さらに骨細胞培養系にMAPKおよびNF-kB阻害剤を添加し,AGEおよびLPSによる刺激を与えスクレロスチン発現の定量を行った。JNK,ERKおよびNF-kB阻害剤はAGE誘導性スクレロスチンの発現を有意に抑制した。一方,p38, JNKおよびNF-kB阻害剤はLPS誘導性スクレロスチンの発現を有意に抑制した。AGEおよびLPSによるスクレロスチン発現の誘導において,MAPKおよびNF-kB経路が関与していることが示唆された。 以上の結果より骨細胞においてはAGEおよびLPSが,RAGE, MAPK, NF-kB経路とTLR2, MAPK, NF-kB経路の2経路を介し,スクレロスチンの発現を誘導することによって糖尿病関連歯周炎の病態悪化に寄与しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における研究予定内容は,AGEおよびLPSによるスクレロスチン発現の誘導におけるシグナル経路を解明することであった。研究実績の報告に示すように,骨細胞におけるスクレロスチン発現にはRAGEまたはTLR2,そしてMAPK,NF-kB経路が関与している可能性を発見した。一方,PI3K/Akt経路やJAK-STAT経路など他の経路の探索にも務めたが,有意な実験データを得ることが出来なかった。1経路のみならず,複数のシグナル伝達経路の関与を疑っているが,未だ全貌の解明には至っていない。
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