研究実績の概要 |
これまでに我々は、糖尿病における歯周病増悪のメカニズムを明らかにすることを目的に、streptozocin(STZ)誘導糖尿病ラットに、実験的歯周炎を惹起し、NO経路を中心に検討した。その結果、糖尿病ラットでは、正常ラットと比較し、炎症反応が増強していることを報告した(Nishikawa.T et al, J Clin Periodontol ,2012)。そこで今回は、糖尿病ラットの実験的歯周炎に対するインスリン治療効果を検討し、歯周病への影響の詳細な機序を検討した。 具体的内容は、5週齢の雄性SDラットにstreptozocin(STZ)を投与し糖尿病を誘導した。STZ投与2週間後に、上顎右側第二臼歯の歯頸部にナイロン糸を結紮し、実験的歯周炎を惹起するとともに、糖尿病ラットの半数に対しインスリン治療を開始した。歯周炎惹起2週間後に歯肉における組織血流、遺伝子発現、組織学的検討を行った。その結果、糖尿病ラットでは正常ラットと比較し、組織血流量は低下し、TNF-α、iNOSの遺伝子発現が増加した。また、炎症性細胞浸潤、免疫染色によるnitrotyrosineの強い陽性染色像を示した。インスリン治療は、糖尿病ラットにおけるこれらの現象を改善した。結論として、インスリン治療による血糖コントロールの改善は、糖尿病における歯周病の増悪阻止に有効であることが実験的に証明された。 以上のことは、臨床的にも学術的にも非常に意義深いものであり、近年、高齢者の現在歯数は増加し歯周病罹患者も増加している状況の中、本研究による成果の臨床応用が我が国の歯周病罹患率の抑制の一助となれば、国民の健康増進およびQOL向上、我が国の医療費削減に寄与すると考える。
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