申請者は,発達期障害の中でも比較的頻度の高いDown 症患者を対象とし,接触センサーシステムを用いて水嚥下時における舌圧を測定し,Down 症患者は健常者と比較して,嚥下時の舌圧が口蓋全体で低く,特に口蓋正中前方部で舌圧が顕著に低いこと,また口蓋正中部の舌と口蓋との接触様相が弱いことを明らかにした。さらにDown 症候群に特徴的な狭小な口蓋形態が口蓋正中中央と後方の舌圧発現と関連していることを明らかにした。このことから,Down 症患者の口蓋正中前方部と舌との弱い接触様相は,舌の機能的な発達遅延や運動系の異常に起因することが推測された。 一方,ヒトの咀嚼・嚥下運動に関わる因子として,テクスチャー等の食品性状が挙げられる。咀嚼・嚥下機能の客観的評価方法としては,筋電図を利用した方法がある。一方で,ヒトの感覚による主観的評価方法として,実際に食品を食し,味,食感,香りおよびおいしさの程度を評価する官能評価がある。野口らは,4つテクスチャー:弾力,硬さ,しなやかさ,歯切れの良さの特性を持つモデルゲルにて咀嚼中の筋電位測定を行い,各テクスチャーを客観的に評価した.しかし,これらは嚥下を含まない咀嚼初期の検討であり,咀嚼後半から嚥下までを含めた客観的評価手法の検討が必要である. 本研究では、任意にぼそぼそ感を設定できるモデルゲルを用いて,ヒトの咀嚼・嚥下時の筋活動と官能評価による食感とを比較検討、またその関連について検索し,ぼそぼそ感における物理量と感覚量の関連性の検討を行った。その結果,食品のぼそぼそ感の強さは,官能評価から飲み込みにくさに関連しており,さらに筋電図学的評価から嚥下時の舌骨上筋群の筋活動時間に影響を及ぼすことが明らかとなった.このことから,嚥下時の舌骨上筋群の筋活動時間は,食品の飲み込みやすさを測る指標となり得ることが示された.
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