研究実績の概要 |
腸内と口腔の細菌叢は互いに影響を及ぼすのか,また影響があるとすればどのような影響なのかなど,解明すべき課題は多い.本研究では,自立高齢者と要介護高齢者の口腔細菌叢を解析し,比較した. 自立高齢者16名,要介護高齢者15名から唾液を採取した.唾液から菌DNAを抽出し,次世代シークエンサーによるメタ16S rRNA解析を行った.また,食事記録をもとに摂取栄養素を算出し,両群間で比較した. 細菌叢構成を比較したところ,自立高齢者に比べ要介護高齢者では唾液細菌叢に占めるActinobacteria, Firmicutes(門レベル)の割合が高く,Bacteroidetes, Fusobacteriaの割合が低かった.要介護高齢者では,自立高齢者に比べて門レベルにおける多様性指数(Shannon diversity index)が小さく,細菌叢の多様性が低下していた.一方,属レベルでの多様性指数の比較において両群に差は認められなかった.また,主成分による判別分析(orthogonal partial least square method with discriminant analysis; OPLS-DA)から,両者が互いに特徴的なクラスターを形成していることが示された.摂取エネルギーあたりの摂取栄養素を比較した結果,自立高齢者に比べて要介護高齢者の各種ビタミン類(ビタミンA,B5,B9,B12,C,D,K),コレステロール,飽和脂肪酸(パルミチン酸,アラキジン酸)の摂取量が少なかった.腸内細菌の研究分野では,食習慣により腸内細菌叢のプロファイルが異なることが報告されている.口腔細菌叢と摂取栄養素との関連を示す明確なデータはないが,摂取栄養素が口腔細菌叢の構成に影響を与えている可能性が得られた結果より示唆された.
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