高齢化社会が進む我が国において、口腔顎機能低下や歯牙喪失から国民を守り、健康寿命の延伸を図ることは喫緊の課題である。その中で、55-64歳における有病率が80%を超える歯周疾患、なかでも歯槽骨欠損からの回復が可能となれば、高齢者のQOL向上のみならず、国民医療の大幅な改善が見込める。実際の歯周組織再生では、骨欠損形態の中でも3壁性の骨欠損は比較的治癒の可能性が高いが、観血手術を行っても歯槽骨の完全再生は難しい。ましてや、発症前に定期受診で発見される歯槽骨欠損、すなわち第一次・二次予防レベルでの再生は更に難しい。そこで我々は様々な歯牙関連組織から採取した細胞を使って硬組織再生能を検討した。 細胞はヒト歯髄細胞、ヒト歯肉上皮細胞、ヒト歯肉線維芽細胞を使用し、石灰化の誘導を図るため、Micromass culture法と単層培養でそれぞれ播種した。2-3日培養後、アスコルビン酸とβ-GPを添加した培養液(石灰化培地)に切り替え、3日ごとに培養液を換えながら、3週間培養した。石灰化の評価は、アルカリフォスファターゼ染色とフォンコッサ染色で行った。染色後、それぞれ顕微鏡下で観察の後、写真を撮り、画像解析ソフトを使用して染色されたエリアの解析を行った。 Micromass culture法下での培養では、各細胞とも有意な石灰化能の上昇は確認されなかった。単層培養においてもヒト歯髄細胞、ヒト歯肉上皮細胞では有意な差がみられなかったが、ヒト歯肉線維芽細胞ではALP活性と石灰化物の析出において石灰化培地群で有意な上昇がみられた。ヒト歯肉線維芽細胞において単独で骨形成能を持つ細胞への分化への可能性が示唆された。 これにより、新たな歯周治療法の開発、すなわち、第二次予防での歯周炎の初期治療への貢献が期待される。
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