肥満はメタボリックシンドロームなど多くの疾患の原因として、その予防および治療に関する研究が世界的な規模で取り組まれており、我が国においても国民における関心は非常に高い。一方で、肥満はアトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患の発症に関連することや、褥瘡有病率や創傷治癒遅延にも関連があることが報告されているものの、その発症メカニズムや予防ケア方法に関する研究は非常に少ないのが現状である。皮膚は外表を覆いバリアとしての機能を果たす重要な臓器であり、そのケアは健康維持の観点からも非常に重要である。 本研究では、肥満により皮膚の脆弱性が惹起されるという点に着目し、肥満による真皮エラスチン線維の減少とその発症メカニズムを検証することで科学的根拠に基づくケア方法の開発へと応用することを目的としている。 多因子遺伝性の肥満モデルマウスを使用して皮膚組織の解析を実施した結果、肥満モデルマウスの皮膚では、真皮においてエラスチン線維の減少および断片化が生じており、またその原因として、エラスチン線維の構成成分であるfibrillin-1の発現低下および、分解酵素であるneprilysin(NEP)の発現上昇が関与していることが示唆された。NEPに関しては、免疫組織染色による解析から、表皮および皮下組織においてタンパクレベルでその発現が増加していることも示された。 次に、ヒト皮膚組織を用いて解析を実施した。日本人女性の腹部皮膚組織を解析した結果、軽度な日本人の肥満者でも、真皮エラスチン線維が減少傾向にあることが観察された。また皮膚組織(表皮真皮)中のNEP遺伝子発現量をqPCR法で定量した。BMI増加に伴いNEPは発現上昇を示したが(N=19)、表皮層のみでの定量では有意な変動は示さなかった。今後は例数を追加するとともに、真皮、皮下組織についてもそれぞれ定量し、統計学的解析を実施していく。
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