研究課題
本研究の目的は、肥満者の皮膚生検組織を用いて、経皮的ドラッグデリバリーに関わる表皮バリア機能および皮膚内の薬物代謝酵素の発現動態を明らかにすることである。これにより、肥満度の上昇が経皮的ドラッグデリバリーの変化に与える影響を明らかとし、肥満者の皮膚特性を考慮した新しい経皮吸収方法の確立を目指す。平成29年度は、対象者の皮膚組織から表皮を分離し、肥満度の症状に伴う皮膚内薬物代謝酵素の発現動態を検討した。特に、経皮吸収剤として臨床で頻用されているフェンタニルパッチの代謝酵素であるCYP3A4に着目し、皮膚内の発現動態をmRNA量およびタンパク質発現量で評価した。乳房再建術を受ける成人女性を対象とし、腹直筋皮弁法により生じた残余皮膚組織を解析した。対象者は非肥満群(BMI<25)16名、肥満群(BMI≦25)16名であり、平均年齢は非肥満群で49.6(5.3)歳、肥満群で50.5(4.7)歳であり、両群に有意な差は認められなかった。平均BMIは非肥満群21.5、肥満群27.2であり、有意な差が認められた(p<0.001)。リアルタイムPCR法を用いてCYP3A4の表皮内発現量を検討した結果、肥満群では非肥満群と比較してCYP3A4mRNA発現量の有意な低下が認められた(p=0.002)。また、CYP3A4mRNA発現量とBMIの間には、中程度の負の相関関係が認められた(Person's r=-0.405、p=0.023)。タンパク質発現量は蛍光免疫組織染色を実施した。その結果、CYP3A4は表皮に特異的に発現し、肥満群は非肥満群と比較して表皮におけるCYP3A4シグナルの低下が認められた。この結果から、肥満者の皮膚において、CYP3A4によって代謝されるフェンタニル貼付剤などの薬物は、表皮における吸収過程において代謝が変動することが予測され、血中への移行に影響することが推察される。この後は、CYP3A4の発現を制御するさらに上流の因子にも着目し、引き続き解析を実施する予定である。
3: やや遅れている
本研究は形成外科手術を受ける患者を対象としており、当初の想定よりも肥満に該当する患者が少なく、予定サンプル数の確保に時間を要した。
非肥満、肥満の2群ではなく、BMIの連続値としての評価も含め、解析を実施していく。
本研究は形成外科手術を受ける患者を対象としており、当初の想定よりも肥満に該当する患者が少なく、予定サンプル数の確保に時間を要し、当初の予定よりも遅れているため。平成30年度はBMIを連続値で評価するなど解析方法を工夫しサンプル数を確保した上で計画を遂行する予定である。
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PLoS One
巻: 13 ページ: 1-13
10.1371/journal.pone.0193830. eCollection 2018.