研究課題/領域番号 |
16K20777
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
谷口 千枝 椙山女学園大学, 看護学部, 助教 (60738251)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 渇望感 / 禁煙 / 禁煙治療 / ニコチン依存度 / TCI |
研究実績の概要 |
2016年度は、我々の開発した渇望感尺度(Tobacco Craving Index: TCI)が、日本の禁煙治療においてどの程度患者の喫煙状況を反映するかを明らかにするために、協力6施設のデータを集計した。対象は協力6施設の禁煙外来に受診し、5回の禁煙治療を完遂した630名とした。対象者の平均年齢は55.1歳(標準偏差:14.0)、高ニコチン依存の者が35%を占め、抑うつと診断される者が全体の28%を占めた。初回のTCIは、グレード0が14名(2.3%)、グレード1は100名(16.6%)、グレード2は165名(27.5%)、グレード3は322名(53.6%)であった。禁煙治療最終回の喫煙状況別に各々の診療回のTCIの平均値を比較すると、初回から最終回まですべての診療回において禁煙失敗者のTCIの平均値は禁煙成功者に比べて高値を示した。禁煙治療終了時の禁煙成功を従属変数に、診療毎のTCIを独立変数として、多変量調整ロジスティック回帰分析を行った。調整因子は、性、年齢に加えて、ファーガストロームニコチン依存度テスト、精神疾患の有無とした。TCIグレード0と1を基準とした場合、グレード2およびグレード3の禁煙成功オッズ比は1.02-0.01となり、3回目の診療以降は全て統計学的有意に禁煙しにくいことが明らかになった。 TCIは、参加者の喫煙状況を強く反映していた。禁煙治療中に患者のタバコへの渇望感の強さを客観的に評価し、診療毎に変化がないか、強ければ何が要因か分析し適切な介入を行うことは、禁煙成功率の上昇に寄与すると考えられた。 本年度はこの結果を第10回日本禁煙学会学術総会にて発表し、現在論文作成中である。 次年度はこの結果を踏まえ、従来から使用されているQSU-briefやMNWSと比較した分析を行うことにしており、現在新たな問診票を作成し、協力施設と調整中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度の実施状況については、結果をできる限り早めに論文化するように、当初は次年度に6施設のデータの集計を行う予定であったが、2016年度に集計をし、結果を公表するように進めた。そのため、学会発表等も2016年度中に実施することができた。本研究は以前から実施していた研究だったため、そのように早い集計が可能になったと考えられた。 その一方で、当初の予定では、従来から使用されているQSU-briefやMNWSと比較した分析は初年度に実施する予定であったが、研究計画書の作成、新たな問診票の作成、協力施設への調整および倫理委員会の申請に時間がかかり、1年遅らせて次年度の実施と変更した。また、入力ソフトを、タブレットを用いた問診に変更することで、ソフトの開発にも今後時間がかかる予定である。これらを総合すると、予定以上に早く進捗している部分と遅い進捗の部分とあり、平均的には概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については、すでに集計の終えた「渇望感尺度(Tobacco Craving Index: TCI)が、日本の禁煙治療においてどの程度患者の喫煙状況を反映するか」について、英文論文を作成し投稿していく予定である。 また、今後予定している「従来から使用されているQSU-briefやMNWSと比較した分析」は、協力施設の禁煙外来で問診表を使って行う予定である。従来までの紙ベースではなく、入力ソフトを開発し、タブレットから患者が直接現在の渇望感や喫煙状況について入力する形式を考えている。昨年度協力施設の倫理委員会の申請が終わり、現在協力施設の看護師と調整中である。タブレット入力に関しては、禁煙外来の年齢層が比較的若年者が多いことや、カウンセリング後に看護師の入力の手間や入力ミスが起きること等を考慮して、実施を考えている。そのことにより、データの集計がより正確に、また簡単にできるようになると考えられる。1年間、上記のようなデータを収集し、その後集計を行う予定である。集計はTCIが従来から使用されているQSU-briefやMNWSと比べて喫煙状況を強く反映していれば、時間がかからず患者に負担の少ないTCIが臨床にはより適していると言え、全ての尺度がどの程度喫煙状況を反映しているかを比較するものとする。その後論文を作成し、投稿していく予定である。 今後の課題として、禁煙外来の患者数が昨今減少していることから、分析対象者が少なくなることが予測される。できる限り患者数を増加させる必要があり、対象施設での禁煙の啓発や患者への広報が重要になると考えられる。また、渇望感を禁煙外来で確認することの重要性を広げるために、論文化させたものをさらに講演会や学会を通して広めていく必要もあると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度に実施予定であった、開発した渇望感尺度と従来までの尺度との比較が次年度に持ち越しになったことにより、臨床で研究用に用いる費用を2016年度に利用しなかった。次年度に持ち越した上で利用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は協力施設1施設の禁煙外来で、問診票に従来からあるQSU-brief等の指標を追加して聴取する予定である。問診票システムは全て患者が直接タブレット入力し、そこからデータを集計するソフトを開発する予定である。次年度使用額に関しては、そのソフト開発に充てる予定である。
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