高齢社会を迎え、認知症高齢者とそれに伴う介護・看護負担は増加の一途をたどっている。高齢者の認知症発症あるいは増悪因子として転倒・骨折が挙げられるが、その要因として、起立性低血圧(orthostatic hypotension: OHT)が頻繁に指摘されている。OHTは主に自律神経機能障害により生じる。OHTは一般的には起立試験と呼ばれる方法により、病院などで検査される。臥位の状態から立位に姿勢が変化した際、収縮期血圧が20mmHg以上低下するなどの基準をもって、起立試験陽性と判定する。しかし、従来のOHTの検出方法では時間がかかるほか、検査できる場所が限られる問題があった。 そこで本研究では、自律神経障害と関連する心拍変動解析を用いることで、OHTの検出方法をより安全かつ簡便に行えることを目指した。2019年度では、自律神経障害を高率に合併するレム睡眠行動障害患者および健常高齢者を対象として、起立試験を行い、起立前の状態(すなわち臥位の状態)の心拍変動指標とOHTとの関連を調べた。心拍変動のデータ取得は、すでに開発されているウェアラブルデバイスおよび市販のスマートフォンを用いた。その結果、臥位の心拍変動解析の中でも、ポアンカレプロットと呼ばれる手法により得られた指標が、OHTの発生と関連することがわかった。この結果から、起立試験を行わずにOHTの発生を調べられる可能性が示唆させた。また、病院以外でもOHTの検査を行える可能性が考えられた。これは、自律神経機能が日内や状況により大きく変動する性質と合わせて考えると、より効果的にOHTが検出できる可能性を示唆している。今後、本研究の成果を論文に投稿する予定である。また、本システムを日常生活に応用することで、日常生活内でのOHTの発生および転倒の予測・検出を目指す。
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