研究課題/領域番号 |
16K20871
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野川 奈津子 北海道大学, 歯学研究科, 専門研究員 (80757360)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PCFT / HFM / SLC46A1 / deep intronic mutation / PCR法 |
研究実績の概要 |
葉酸はDNA合成、アミノ酸合成に必須の補酵素であり、欠乏により巨先芽球性貧血、免疫不全症状、神経症状などを来す。妊婦で葉酸が欠乏すると、胎児の神経管形成障害リスクが上昇する。この葉酸を先天的に吸収できない遺伝性葉酸吸収不全症(Hereditary folate malabsorption, HFM)は1961年初報告され、2014年現在全世界で31の報告がある。 2014年申請者らは、本邦初となるHFM患者について報告した。その患児について、申請者らは葉酸輸送体proton-coupled transporter(PCFT)のコード遺伝子SLC46A1に未報告の変異があることを発見した。当該患児は重症免疫不全症状、神経症状を有していた。過去の報告によれば、後遺症なく治療が奏功した例はほとんどない。本研究の目的は、当該遺伝子変異について機能解析を進め、遺伝性葉酸吸収不全症に対する有効な治療基準を確立することである。 我々が報告した遺伝性葉酸吸収不全症患児の遺伝子変異のうち、ひとつは重要なアミノ酸置換を生じることが過去の報告で予測されており、SNPとして登録のない重要な変異である。一方のdeep intronic mutationについては、通常転写されるエクソンと距離のあるイントロン部位での新規変異であり、転写以降の過程に及ぼす影響は不明である。申請者らは平成28年度中、当該イントロンを挟む両側エクソン上にプライマーを設計し、PCR法により転写レベルでの配列を解析した。患児の葉酸吸収不全が、両親由来の遺伝子変異が組合わせられたことによることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、患児の葉酸吸収不全が、両親由来の遺伝子変異が組合わせられたことによることを確認した。これに加え、当初は患児由来RNAより作製したcDNAについてTAクローニングを行い、各々のアリルを単一で調べ、シークエンス結果から各々の変異が両親由来であり同アリル上にないことを確認する予定であった。 上記に加え、研究の進行具合により、各々の変異の配列を有した発現ベクターを作製しHeLa細胞に一時的に導入し、ウエスタンブロット法によりタンパクレベルの発現を解析する予定であった。また、PCFTは細胞膜貫通型タンパクであり、正常では細胞膜に局在していることから、蛍光標識を有するGFP発現ベクターに変異SLC46A1を挿入し、HeLa細胞に導入して細胞内の局在の変化を確認する予定であった。さらに、患児由来不死化B細胞(EBV-LCL)を樹立し、培地に葉酸濃度勾配を付与し連日細胞数のカウントを行い、正常者由来細胞株と同等の増殖能を維持する必要最小濃度を調べることで、血球系へのPCFT loss-of-functionの影響の有無と、治療に必要な血液中の葉酸最小濃度を推測可能であると考えていた。 しかし、申請者自身について平成28年度初期に妊娠が発覚し、日常生活が困難な体調不良が長期間続いたこと、加えて妊娠に関連した数ヶ月にわたる入院および産休取得、その後の体調回復の遅れにより、本来予定していた研究活動が困難となった。よって、当初の計画より進捗が遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、当初予定していた研究計画を急ぎ施行する。平成28年度と比較し、申請時よりエフォートを増やすことで、研究計画の遅れを補う予定である。 具体的な研究内容として、各々の変異の配列を有した発現ベクターをHeLa細胞に一時的に導入し、タンパクレベルの発現を解析する。GFP発現ベクターに変異SLC46A1を挿入し、HeLa細胞に導入して細胞内の局在の変化を確認する。患児由来EBV-LCLを樹立し、血球系へのPCFT loss-of-functionの影響の有無と、治療に必要な血液中の葉酸最小濃度を推測する。髄液中の必要濃度の検索については、患児の脳神経由来細胞の採取は不可能であるため、同等の変異を導入した神経系細胞株で行う。また、患児由来EBV-LCLに正常配列を持つSLC46A1を導入し増殖能の回復を観察する。 上記ののち、PCFTの機能欠失細胞株HeLa R1-11細胞と通常HeLa細胞について、葉酸濃度勾配における増殖能を解析する。さらにHeLa R1-11細胞に正常配列SLC46A1を導入した細胞株を樹立し、増殖能の差を調べる。PCFTはDNA合成に関与することであるから、葉酸吸収不全により細胞周期のS期での停滞が生じるという報告がある。これをふまえ、樹立した患児由来EBV-LCLを葉酸濃度勾配下で一定時間培養し、細胞周期解析でS期停滞が生じているかを調べる。PCFTの機能欠失細胞株につて、HeLa細胞およびEBV-LCLに正常配列および変異配列SLC46A1を導入し、蛍光抗体標識したメソトレキサートの取り込みから機能解析を行う。さらに解析データをまとめ、学術論文投稿、学会発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者の妊娠による体調不良、長期入院、産休取得により、研究計画に遅れが生じたため、平成28年度使用額を次年度に繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に平成28年度使用額の繰り越し分を機能解析のための試薬購入費用として使用し、研究を施行する。同様に、平成30年度以降も前年度の予算を使用していく予定である。体調不良により参加不可能であった学会等にも参加する予定である。
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