癌細胞において幹細胞様の形質を有する未分化集団である癌幹細胞は、その高い自己複製能、多分化能から腫瘍形成、転移等の癌病態の増悪化において重要な役割を担っていると考えられる。そのため、癌病態増悪化における癌幹細胞の生物学的作用機序を理解し、その一端を担う癌幹細胞特異的分子を同定することは、有用な新規治療、予防、診断法確立につながる事が期待できる。 そこで、本研究では、癌幹細胞特異抗原として同定された機能未知のオーファン受容体であるGPCR OR7C1の癌生物学における機能を明らかにすることを目的として、癌細胞株を用いてOR7C1を遺伝的に欠損したクローン(KO)をCRISPR/Cas9の系により作成し、野生型(WT)との比較解析を行った。 結果、WTと比較してOR7C1を欠損させることで、in vivoにおいて、ヌードマウス皮下での腫瘍形成能の減弱、ならびに肺転移能の顕著な抑制がKO群で認められ、さらにin vitroで種々の培養液組成下における増殖能を検証した結果、糖、アミノ酸を介したエネルギー代謝に起因すると考えられる細胞増殖抑制がKO群で認められた。そこで、WTとKOを用いてメタボローム解析による代謝経路の変化を網羅的に比較解析した結果、OR7C1はGlucose代謝に重要な機能を担っていることが推察された。これらのことから、癌生物学においてOR7C1は癌細胞特異的なエネルギー代謝であるwarburg効果に重要な分子であり、癌に対する有用な分子標的と成り得ることが示唆された。
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