研究課題/領域番号 |
16K20875
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡邊 崇之 北海道大学, 電子科学研究所, 研究員 (70547851)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 性決定 / 性的二型神経回路 / doublesex / fruitless |
研究実績の概要 |
本年度はまず fruitless 発現細胞の分布について調査した。コオロギの Fruitless タンパク質に対する特異的抗体を用いてコオロギ脳内の Fruitless 発現細胞を可視化し、それらに雌雄差や発生ステージに依存した差異があるかを検討した。その結果、コオロギ脳内で Fruitless タンパク質は極めて広範な細胞で発現していることが明らかとなった。モデル昆虫であるショウジョウバエでは、オス特異的な Fruitless タンパク質が存在し、このタンパク質が特定の細胞クラスターでオス特異的に発現することで、その細胞クラスターを “オス化” する。その一方、雌雄共通の fruitless 遺伝子産物は極めて広範な細胞で発現する。コオロギの fruitless 遺伝子について、これまで性特異的転写産物の存在を確認できていないことから、コオロギ脳で発現する Fruitless タンパク質の局在は、ショウジョウバエにおける性非特異的 fruitless 遺伝子産物と類似した発現パターン・機能を持つと推測している。また次年度、Dsx発現細胞の同定を行うため、コオロギDsx に対する特異的抗体の作成の準備を進めた。 上記の実験と並行して、昆虫における doublesex 遺伝子の分子進化について調査した。doublesex 遺伝子は転写因子をコードするが、目的の DNA 配列への結合に必要な DM ドメインにおいて、コオロギ doublesex で多くのアミノ酸置換が起こっていることを見出した。種々の昆虫のdoublesex 遺伝子についてその DM ドメインの構造を比較することによって、このアミノ酸置換が昆虫の中でも極めてレアな現象であることや、このアミノ酸置換によって目的の DNA 配列への結合が阻害されうることを示唆する結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Doublesex 遺伝子の分子進化については、これまでの知見からは予想できない極めて興味深い現象に迫れている。 次年度へ向けて、組み替えタンパク質の調整や CRISPR 法を利用した Knock-in 技術に使用する遺伝子組み替えベクターの構築も順調に進んでいる。また、上記の研究実績の他にも、本年度はコオロギ脳において「行動遂行時に不活化する神経細胞を可視化する実験技術」を開発しており、極めて有望な成果が出ている。本研究ですでに作成した、もしくは作成に取り組んでいる性決定遺伝子特異的抗体による組織染色と上記の実験技術を組み合わせることで、fruitless・doublesex 発現細胞が性特異的行動に関与するか否かを評価できると考えている。 このように、次年度以降は当初の研究計画以上の成果が見込まれるため、当初の研究以上の進展が得られたとした。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より、fruitless 遺伝子がコオロギ脳において性特異的神経回路の構築に関わるか?という問いについてはネガティブな結果を得ているため、今後はdoublesex 遺伝子に着目して研究を展開する。 doublesex 遺伝子については ① 性特異的遺伝子産物を検出する抗体を作成し、脳内分布を明らかにすること ② CRISPR 法を用いたknock-in 法を利用し、Doublesex 発現細胞の神経細胞形態を明らかにすること ③【現在までの進捗状況】で触れた新規技術を用いて、性行動時にこれらの神経細胞が賦活化するかを調査すること、これら3点に関する研究を優先的に進めていく。 また、コオロギ Doublesex のDM ドメインにおける変異の蓄積が結合配列特異性を変えているのかを調査する目的で、bacterial one-hybrid 法の構築を進めているが、うまく行っていない。この研究についてもトラブルシューティングを継続して行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度作成を予定していたコオロギ Doublesex に対する特異的抗体について、組み替えタンパク質の調整に時間がかかり、次年度へ作業を持ち越すこととした。そのため、抗体作成にかかる費用分の次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の通り、コオロギ Doublesex に対する特異的抗体を次年度に作成する。組み替えタンパク質の調整が終了したのち、速やかに抗体作成を発注する(次年度の夏(8月頃)を予定)。
|