研究課題
本研究では、中性子回折イメージングよりも高い空間分解能が期待される「中性子透過イメージングによるバルク結晶粒の結晶方位イメージング」を開発することを目的としている。前年度までに、J-PARC MLFにおける実験と、新しいスペクトル解析法(ブラッグディップ解析法)である「データベースマッチング法」を組み合わせることにより、逆極点図表示された2D結晶方位イメージングを予定通り開発することができた。本年度は、この成果をJournal of Applied Crystallography誌に論文投稿し、受理・発行することができた。また、近年注目が高まっている小型加速器パルス中性子源施設で本手法が実施できないかを調べるため、北海道大学の電子線形加速器施設(北大LINAC)中性子実験施設(HUNS)にて同様の実験を行った。その結果、若干Noisyではあるが、小型施設でも実施可能であることがわかった。Noisyになった理由が興味深い。HUNSでは高波長分解能化を進めており、J-PARC MLFに近い水準に迫りつつあり、質の高いデータが取得できることが期待されたが、実際にはかなりシグナルの弱いブラッグディップが観測された。これは、ビーム平行度がHUNSでは高くないために起こっていることがわかった。そのため、今後は小型加速器中性子源施設は、強度・波長分解能だけでなく、できるだけビーム発散にも注意して実験を行う必要があるということが明確になった。つまり、中性子源の高輝度化が重要であるということである。
2: おおむね順調に進展している
予定よりも進んでいる点として、小型加速器パルス中性子源においても、開発した手法が利用できる点が明らかになったことがある。小型加速器パルス中性子源施設は、当初計画では、単なるテスト実験用としか考えていなかったが、予想以上に良好な結果を得ることができた。これにより、より高度なテスト実験や、一部の本番の実験が実施できることが示され、実験トライ回数の増加が見込まれる。一方、残された研究課題として、3D化に関する研究がある。通常のCT画像再構成技術が通用しない本手法には、専用の新概念CT画像再構成法を開発・適用する必要がある。この目標を2年度目までには完了することができなかったため、「当初の計画以上に進展している」とはしない。
CT化のためには、結晶方位の完全同定と、投影データの取得(結晶方位を完全同定した結晶粒の中性子ビーム透過方向に関する厚さ情報)の2つの情報が取得できれば良い。最終年度は模擬サンプルを用いて、この基礎実験を行い、模擬サンプル中の結晶粒の結晶方位の3Dイメージングの達成を目指す予定である。
想定以上の研究成果が得られたため、その成果発表に注力した分(3Dイメージング実験の本番を先送りした分)、予定していた経費の使用ペースが変わった。当初計画自体は完遂するので、全体としては予定通りの金額を使用する見込みである。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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