研究課題/領域番号 |
16K20879
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森田 智子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 学術研究員 (10767750)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞競合 / 抗がん物質探索 / 創薬 / 癌 / 細胞・組織 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
私たちや他のグループの研究によって、上皮細胞において正常細胞に囲まれた変異細胞は「細胞競合」と呼ばれる現象により組織から排除されることが分かってきた。本研究は正常上皮細胞に囲まれた変異細胞が積極的に排除されるメカニズムであるEpithelial Defense Against Cancer (EDAC)を促進する低分子化合物を同定し、細胞競合の包括的な理解と新規のがん治療薬・診断マーカーの開発を目指している。 本年度はハイスループットスクリーニングによる低分子化合物の探索を行った。正常上皮細胞として非形質転換型MDCK細胞、蛍光標識変異細胞としてテトラサイクリン発現誘導性MDCK-pTR GFP-RasV12細胞を用いた。この2種類の細胞をそれぞれ10:1の割合で混合し、一層の細胞層を形成した後にテトラサイクリンを添加してがんタンパク質RasV12の発現を誘導する。これにより、新たに生じた変異細胞が正常細胞に囲まれているというがん発生初期の環境を模倣している。テトラサイクリンと同時に低分子化合物を添加し、一定時間後にハイコンテンツ細胞イメージングシステムにてGFP蛍光強度を測定することでEDACを促進する低分子化合物を選抜した。現在、約12万化合物のスクリーニングが終了し、複数のヒット化合物に共通する構造がある点に着目した。この共通構造を基に誘導体を合成し、最も効果的にEDACを促進する化合物を選抜している。また、既知薬理活性化合物も複数ヒット化合物として選抜されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はEDACを促進する低分子化合物を選抜するため、約12万化合物のスクリーニングを実施した。その結果、既知薬理活性化合物や特定の共通構造を持つ化合物がEDAC促進に寄与している可能性を見出した。 計画申請時には細胞競合モデルマウスを用いて低分子化合物の効果を検討することを予定していたものの、こちらについては予備的検討に留まっており、明確な実験結果は得られていない。しかしながら、既知薬理活性化合物は購入可能であり、共通構造を持つ誘導体もマウス投与に必要な量の合成が可能であることが分かっていることから、計画の遂行は可能であると思われる。 以上のことから現段階で本研究はやや遅れていると判断したが、今後の研究推進に関して問題はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、未解析の約5万化合物のスクリーニングを継続すると共に、解析途中で得られるヒット化合物に関して誘導体を合成し、これまでと同様に解析を進めていく。 当研究室では、少量のタモキシフェン投与によってマウスの様々な上皮組織にモザイク状にRasV12などの変異を誘導する細胞競合モデルマウスを確立している。このモデルマウスを用いることで膵臓・小腸・大腸といったヒトのがん治療において重要な臓器におけるがん化の超初期段階をつぶさに観察することが可能となった。現在得られているヒット化合物のうち既知薬理活性化合物は細胞競合モデルマウスに投与し、in vivoにおけるEDAC促進効果を検討する。また、ヒット化合物の共通構造を有する誘導体に関しては標的分子が未知なため、プルダウンアッセイを行って結合タンパク質を同定する。結合タンパク質を同定した後に低分子化合物を最適化し、細胞競合モデルマウスにおけるEDAC促進効果を検討する。さらに、結合タンパク質の活性強度や発現の程度と相関して変動する、分泌タンパク質・脂質代謝物・エクソソーム内容物をプロテオーム解析・メタボローム解析・エクソソーム解析を用いて同定し、癌の超初期段階における診断マーカーに応用できるかを検討する。
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