研究課題/領域番号 |
16K20880
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 岳彦 東北大学, 東北アジア研究センター, JSPS特別研究員(PD) (60723202)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロシア帝国 / 仏教 / カルムィク人 / ブリヤート人 / 東南アジア / 南アジア / 海域 / 東洋学 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、ロシア帝国内のチベット仏教徒と南・東南アジアの民族知識人の交流関係を明らかにするため、以下の調査・研究および研究成果の発表、研究者との意見交換を行った。 6月末から7月初めに、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターおよび同大学附属図書館で、特に南アジア・東南アジアに関するロシア語研究資料の収集を行った。 8月から9月にかけて、ロシア地理学協会でカルムィク人とブリヤート人による未公刊のチベット巡礼日記を閲覧・筆写した。また、サンクトぺテルブルグのロシア科学アカデミー公文書館、東洋写本研究所、ロシア国民図書館手稿部、ロシア国立歴史公文書館において、ロシア帝国の東洋学者による報告書や各種会議での議事録等を取集した。 特に本研究課題に関連する重要な研究成果として、ブリヤート人仏教教団とロシア帝国の中央・地方諸権力との関係性について考察したニコライ・ツェレンピロフ著『仏教と帝国:ロシアのブリヤート人教団(18世紀―20世紀初め)』ウラン・ウデ、ロシア科学アカデミー・シベリア支部モンゴル学仏教学チベット学研究所、2013年(ロシア語)の英文書評を執筆した。また、帝政末期に活躍したカルムィク人指導者の一人ツェレンダヴィド・トゥンドゥトフがダライラマ13世に宛てた書簡のもつ史料的意義について、解説を執筆した。 以上の研究から、ロシア帝国内のチベット仏教徒とロシア東洋学者の密接な関係性、さらにその関係性が対チベット外交に与えた影響について、解明が進んだ。今後チベット仏教徒と東洋学者の結びつきが南アジア・東南アジアの知識人にどのような意味を持ったのか、検討することが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、ロシア帝国内のチベット仏教徒(カルムィク人、ブリヤート人)とロシア帝国東洋学者の関係性を明らかにしたという点においては大いに進展があったが、モスクワのロシア帝国外交史料館(AVPRI)での未公刊史料の収集という研究目標に関しては研究進捗状況にやや遅れが出ている。これはすでに刊行されている同史料館所蔵文書の収集・読解・分析に注力したためであり、平成30年度は同史料館の未公刊史料を収集するつもりである。 また、これらのチベット仏教徒や東洋学者の旅行(巡礼、調査旅行等)について、サンクトペテルブルグのロシア国立海軍公文書館(RGAVMF)やモスクワのロシア国立軍事史公文書館(RGVIA)で史料収集することも、時間的に実現できなかった。特にロシア海軍と南アジア・東南アジアの関係は、本課題の重要な要素であるため、平成30年度においては必ず海軍公文書館で研究活動を行う機会を設けるつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はロシア外交史料館(モスクワ、AVPRI)とロシア国立海軍公文書館(サンクトペテルブルグ、RGAVMF)での調査を最優先させ、ロシア帝国と南アジア・東南アジア諸地域との仏教を通じた関係性についてロシア語史料によって浮かび上がらせることに重点を置く。これらは申請当初の計画として、一部平成29年度中に行う内容であったが、本研究課題が先行研究との差異化を図るためにもロシア側の論理の詳細な分析が必要であるため、順序を追って進める予定である。ロシアの1年マルチ査証を得たので、年度前半に1回、後半に2回、ロシアへの訪問を行い、史料の収集に努める。 また、申請当初の予定通り、9月にイギリスの国立公文書館(TNA)とロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で研究活動を行い、ロシア国内のチベット仏教徒と英領植民地および影響地域の現地知識人との関係についてイギリス政府がどのように把握していたのかという点について、史料調査を行う。 以上のように平成30年度の研究計画としては、申請当初に平成30年度に予定していたタイやスリランカでの調査を限定的に留め、本研究課題の優位性であるロシア政府、ロシア東洋学者、ロシア国内の仏教徒(カルムィク人、ブリヤート人)の動向および彼らの論理の解明に注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は公刊史料や購入済研究資料の読解・分析に注力したため、ロシア帝国史、イギリス帝国史、南・東南アジア史に関する図書の購入が少なく、「物品費」に余りが生じた。また、ロシアでの研究調査期間が短くなったために、「旅費」にも余りが生じた。 平成30年度は、ロシアの1年マルチ査証の入手に成功したので、複数回のロシアでの調査を行う予定である。また、イギリス・ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)等の研究機関で調査を行う予定であるため、これらの調査のために「旅費」を充てる。またロシア、イギリス等において、研究用書籍を購入するために「物品費」を充てる。その他、国際学会での発表等を予定しているため、外国語校正のための費用として使用するつもりである。
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