研究課題/領域番号 |
16K20882
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 優 北海道大学, 地球環境科学研究院, 助教 (70709633)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一酸化窒素還元酵素 / 表面増強赤外吸収分光法 / 酵素電気化学 / 金属酵素 / 一酸化窒素 |
研究実績の概要 |
一酸化窒素還元酵素(NOR)の電極基板であるAu/Siプリズムの表面への固定化を確認するため,NOR/Au/Siプリズムの表面増強赤外吸収(SEIRA)計測を実施した.その結果NORのアミド結合由来の吸収バンドを観測したことから,SEIRA計測によってNORの固定化を確認することができた.NORは表面残基としてシステインを1つ有しているため,AuーS結合を形成することでAu表面には直接固定化されているものと考えている. NORによる一酸化窒素還元反応の酵素反応機構を理解するうえで重要になるのが,触媒活性部位を形成するヘム鉄heme b3と非ヘム鉄FeBの酸化還元電位である.これらの酸化還元電位は過去に何度も報告されているが,報告の度に訂正されてきた歴史的背景がある.最新の報告では,heme b3の酸化還元電位のほうがFeBの酸化還元電位よりも正電位側と報告されていたが,この帰結はNORの電気化学測定結果のみに依存しており,信頼性が高いとは言い難い. 本研究では,赤外プローブ分子として一酸化炭素(CO)を用い,NORの電位依存SEIRA測定により触媒活性部位の2つの鉄イオンの酸化還元電位を決定した.電気化学測定結果は過去の報告と同様に2つの酸化還元波を観測し,負電位側の酸化還元電位においてヘム鉄に配位子したCO由来の吸収バンドを観測した.これらの結果から,heme b3の酸化還元電位のほうがFeBの酸化還元電位よりも負電位側であることが明らかになった.また, heme b3の酸化還元電位と,NOR固定電極による一酸化窒素の還元開始電位が一致したことから,NORによる一酸化窒素還元反応にはheme b3の鉄イオンが関与している可能性が非常に高いことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電極表面に固定化されているNORのSEIRAスペクトルを初めて入手することができた.NOR中のアミド結合部位におけるバンド強度比から,NORがαヘリックスを電極表面に対して垂直に配向した状態で固定されていると考えている. NORの2核鉄錯体触媒活性部位を構成するヘム鉄heme b3と非ヘム鉄FeBの2つの酸化還元電位を決定するために,赤外プローブ分子として一酸化炭素(CO)を用いて,CO吸着NORの電位依存SEIRA測定を実施した.Heme b3とFeBの酸化還元電位は過去に何度も報告されているが,全部で4つの鉄イオンを含有するNORにおいては各鉄イオンの帰属は非常に難しく,報告の度に酸化還元電位の帰属が覆されている.また,酵素電気化学測定の結果をもとにしたNORの鉄イオンの酸化還元電位の決定は過去に報告されているが,SEIRA計測と酵素電気化学を融合させた報告例はなかった. CO吸着NORの電位依存SEIRA測定の結果,heme b3の鉄イオンに配位したCOに由来する吸収バンドの出現を,鉄イオンのFeIIIからFeIIへの電気化学的還元により確認することができ,heme b3とFeBの酸化還元電位の位置を決定した.本研究で決定したHeme b3とFeBの酸化還元電位の帰属は以前の帰属と逆転しており,表面分光酵素電気化学を用いたからこそ正しく帰属できたと考えている. 本研究によりNORの2核鉄錯体触媒活性部位の酸化還元電位を正しく帰属できたことで,NORによる酵素反応機構を電気化学の観点から考察できるようになった.今回決定されたHeme b3の還元電位は,NOR固定化電極における一酸化窒素還元開始電位と一致する.すなわちheme b3が還元されることでNORによる触媒反応が進行することを示唆しており,heme b3が触媒反応に関与することは間違いない.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果により,NORの2核鉄錯体触媒活性部位の酸化還元電位を正しく帰属することでき,また,電気化学の観点から反応機構をある程度まで絞り込むことに成功した.今後は触媒反応環境下においてNOR固定化電極の電位依存SEIRA計測を実施し,中間体に由来する赤外吸収バンドの取得を目指す. 感度良く電極表面のNORのSEIRAスペクトルを入手するためには,NORの電極表面固定化法が最も重要である.種々の末端官能基を有するリンカーを用いたタンパク質の配向制御法の確立や,膜タンパク質であるNORの生体環境を電極表面で再現するために,脂質二分子膜の電極表面での形成と膜内部へのNORの導入などを検討する.その後,一酸化窒素雰囲気下でのNOR固定化電極の電位依存SEIRAスペクトルの入手し,そして,そのスペクトルをもとにした反応機構の考察を試みる予定である.
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