通常の酸化還元酵素反応では,酵素と基質が共存下で,更に還元剤/酸化剤となる試薬を加えることで酵素反応を駆動することができるが,タンパク質フィルム電気化学では金属酵素を固定化した電極を用いることで電極電位の制御により金属酵素の触媒活性を容易にON/OFFすることができる.また,特に多数の金属錯体を内包する金属酵素などにおいては,電位制御により特定の金属錯体の中心金属の価数制御が可能になる.このような価数制御を酸化剤や還元剤を用いて実施するのは極めて難しいため,タンパク質フィルム電気化学と分光手法,特に表面敏感な振動分光法を組み合わせることができれば,酵素反応機構などに関する知見を得ることができると期待される. 本研究では,一酸化窒素(NO)を一酸化二窒素(N2O)へ還元する膜貫通型の金属酵素の一酸化窒素還元酵素(NOR)を,表面増強赤外吸収(SEIRA)分光計測が可能なAu電極基板表面へ固定化し,その電極触媒活性を評価した.酵素固定化法として,Au電極基板への直接固定化法と,末端官能基としてカルボキシ基を有するアルカンチオールにより形成された自己組織化単分子層(SAM)を介した固定化法の2つの方法を確立した.どちらの固定化法においても電極電位の制御により電極表面に固定化されたNORの触媒反応を確認することができた.また,分光プローブとして一酸化炭素(CO)を用いた電位依存SEIRA分光測定を実施し,触媒活性部位を構成する2つの鉄錯体,ヘム鉄錯体と非ヘム鉄錯体,の還元電位を決定することに成功した.本研究による還元電位の帰属により,提案されている3つの酵素反応機構のうちの1つを否定し,2つに絞りこむことができた.
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