北海道のような寒冷地では,岩盤の凍上や凍結破砕によって,落石や崩落,土木構造物の変状等が発生する.岩石・岩盤の凍上性を把握することは重要な課題であるが,実岩盤斜面の凍結環境に関しては不明な点が多い.本研究では,季節的な凍結融解作用により凍上する実岩盤斜面を対象に,地中レーダー探査機が送受信する電磁波の伝播速度を利用して岩盤水分量の定量的モニタリングを試みた. 最終年度はこれまでに取得した電磁波伝播速度データをもとに,岩盤斜面内水分量を定量化した.季節的な凍結が及ぶ深度0.5mまででは,厳冬期に電磁波伝播速度の上昇,融解が進む春先に速度の低下が認められ,凍結融解に伴う岩盤表層での水分の相変化が捉えられた.電磁波伝播速度~比誘電率~体積含水率の関係式を用いて換算した結果,岩盤表層の未凍結時における体積含水率は約30%と高い値を示したのに対し,凍結時は10%未満の低い値となった.一方,1m以深では,体積含水率は10%前半台で推移し季節的変化に乏しい結果となった.このような岩盤表層部と深部での水分条件の違いは,岩石風化が進行した表層部は空隙が多く,雨水・融雪水が浸透,保持されやすいためと考えられる.ゆえに岩盤表層部には間隙水が十分に存在しており,それが凍結した結果,岩盤の凍上現象を引き起こしているものと推定される. 本研究では,電磁波伝播速度から実岩盤斜面内の水分状態変化を定量化することができた.この手法では,岩盤斜面内で凍結破砕等の風化作用が及ぶ深度を非破壊的に評価することが可能であろう.しかし,電磁波伝播速度から体積含水率を求める関係式の係数は,岩質や空隙率によって変化するため,精度向上のためにはボーリングコアとの対比等も必要である.
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