研究課題/領域番号 |
16K20887
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
小川 博司 旭川医科大学, 医学部, 助教 (60632536)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | High gamma activity / Electrocorticography / Brain function / Awake surgery / Epilepsy surgery |
研究実績の概要 |
従来の脳機能マッピングは脳皮質を直接電気刺激して症状を誘発する電気刺激マッピングが行われていた。ただ、この手法では被検者の協力が必要な点、多くの計測時間を要する点、さらに痙攣誘発の危険性が問題であった。こうした問題点を解決するべく、我々は硬膜下電極を用いて、脳表から直接測定できる脳皮質脳波の高周波成分(60-170Hz)に着目して脳機能マッピングを行ってきた。特定の課題(言語課題、運動課題など)を遂行することにより、対応する脳皮質の機能部位に有意に60-170Hzの高周波律動をリアルタイムに検出することができた。この手法は、従来の電気刺激マッピングに劣らず精度が高く、痙攣誘発することなく短時間での脳機能マッピングが可能であった。特に、手術時間が限られている覚醒下手術での有用性は高く、これまでに施行した術中脳波マッピングの結果をまとめて英文論文として報告し、脳波を用いた脳機能マッピング法が確立したものだと周知することに貢献できた。また、本手法について学会発表などを通じて興味のある施設から連絡をいただいており、当施設でのマッピング法の見学、および、他施設への出張での脳機能マッピングの実践など本手法の認知度及び期待度が高まっていると実感している。現段階では、「被験者協力が必要」という問題点を解決できていないことから、今後は課題を必要とせずに脳機能マッピングを行える手法の確立を目指している。課題を必要としないマッピング法が可能となれば、意識障害のある患者や高齢のため覚醒下手術での適応から外されていた患者に対しても脳機能温存の脳外科手術が可能となると考えられ、革新的なマッピング法の誕生となると期待でき、今後も研究を継続していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究では、脳波を用いたマッピング法の確立を最低限の目標としていた。これまで論文発表や学会発表を通して十分な結果を得ることができ、本目標は達成できた。また、本マッピング法を当施設内のみならず、他施設の研究者とも実践および一定の測定結果を共有できたことにより、本マッピング法が一般的に応用できることを示すことができた。この業績が基盤となり、次なる研究へとつなぐことができた。
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今後の研究の推進方策 |
脳波を用いたマッピング法は皮質を主に捉えているため、皮質下の白質のマッピングも行う必要がある。こうした問題を解決する方法として、皮質-皮質間誘発電位を測定し、研究を開始している。この手法では硬膜下電極の1つを1Hzの単発刺激を加算平均することで白質の連合線維を介して関連のある皮質を検出することができる。この手法は特に被験者の課題遂行を必要としないことも大きな特徴である。脳波を用いたマッピング法について、これまでの結果から受動的に音を聞くだけで側頭葉言語野を検出できることを確認している。これらを組み合わせることで、音声を聞かせて側頭葉言語野の脳波を検出し、その後に皮質-皮質間誘発電位を行うことで前頭葉言語野を検出することが可能となる。このマッピング法が確立すれば、課題遂行を必要とせずに皮質および白質の言語機能を捉えることが可能となる革新的なマッピング法となる。これまで、数例施行して一定の結果が得られていることから、今後症例を重ねて論文および学会報告することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では脳波測定に硬膜下電極(ユニークメディカル社)を使用している。覚醒下手術に用いる電極は保険償還できないため本研究費より算出しているが、てんかん外科症例では保険償還できるため、当初の予定よりも購入枚数が少なくなっている。また、例年オーストリアのg.tec社より研究者の受け入れを行っているが、本年度は受け入れがなかったため費用が生じなかった。次年度は硬膜下電極、リード線の購入およびg.tec社からの受け入れを予定しており、前年度分を今年度分に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究で使用する硬膜下電極、リード線などの消耗品は今年度も必要である。また、現在英文論文1本投稿中、さらに英文論文を1本執筆中であり、これらに関わる英文校正、カラー印刷、別刷り代を必要とする。その他、g.tec社との研究交流を通じて機器類のアップデート等に費用が必要となることを予定している。
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