研究課題/領域番号 |
16K20888
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
古川 智範 弘前大学, 医学研究科, 助教 (60402369)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ベンゾジアゼピン / lipocalin2 / GABA受容体 |
研究実績の概要 |
不安障害の治療や睡眠誘導、鎮静などに広く用いられるベンゾジアゼピン(BZD)系薬物の長期使用により、認知症発症リスクが増加する臨床報告が急増している。BZD の長期暴露がどのような経路で神経傷害を起こし認知機能を低下させるのか、そのメカニズムを知るためにBZD系薬物であるジアゼパム(DZP)を長期投与したモデルマウスを用いた。我々はDZP長期投与により大脳皮質、海馬、扁桃体の脳領域においてlipocalin2(Lcn2)の発現が増加することに着目した。まず、Lcn2を発現する細胞を同定するために免疫組織学的な解析を行った。 神経細胞、アストロサイト、ミクログリアそれぞれのマーカーとLcn2について二重染色を行い、Lcn2陽性シグナルが細胞種特異的な局在性を示さないことを明らかにした。また、TUNEL染色法による解析を行ったところ、DZP長期投与によるTUNEL陽性シグナルの増加が認められず、脳内でLcn2の発現増加させるDZP長期投与は細胞死を誘導しないことが明らかになった。次に、Lcn2は鉄結合能を有することから、脳内鉄イオン濃度とLcn2発現調節の関与を調べることを目的に、鉄キレーターであるデフェロキサミンをDZPと同時に長期投与してLcn2発現を解析した。そして、デフェロキサミン投与によりLcn2発現増加が抑えられることを明らかにした。さらに、DZP長期投与による認知機能への影響を確認するために行動薬理学的評価を行い、DZP長期投与による空間学習能力の低下を確認した。この認知機能低下のメカニズムを探るために認知機能に関わる脳領域である海馬の神経細胞の形態観察を行い、DZPを長期投与したマウスではシナプス構造であるスパインの密度が減少することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり免疫組織学的解析を行いLcn2発現細胞を同定することができた。Lcn2は活性化したミクログリアに強く発現していると予測していたが、神経細胞やアストロサイトにもLcn2が含まれていることが明らかになった。また、DZP長期投与による細胞死の誘導が増加しないことや神経細胞のスパイン密度がDZP長期投与により減少することを見出したことは、進捗過程において大きな成果である。一方、海馬組織の電場電位記録を行い、海馬の長期増強(LTP)を解析することでDZP長期投与による認知機能評価をする予定であったが、その実験系確立までには至っていない。しかしながら、行動薬理学的な解析により個体レベルで評価を行い、DZP長期投与が認知機能を低下させることを明らかにしたことから、当初の計画どおりの進捗状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
DZP長期投与により脳内のLcn2発現が増加し、海馬神経細胞の形態変化が生じて認知機能が低下したことを明らかにした。しかしながら、DZPが結合するGABA-A受容体はLcn2発現にどのように関与するのか、また、Lcn2の転写活性調節はどのようにして活性化されるのかなど、DZP長期投与によるLcn2発現増加のメカニズムは未だ不明である。また、DZP長期投与によるスパイン密度の減少にLcn2の機能がどのように関わるのかも未解明である。Lcn2発現調節メカニズムについては、レポータージーンアッセイによりLcn2遺伝子の転写調節領域を解析することで解明していく。そして、RNA干渉や遺伝子導入によるLcn2遺伝子発現を調節し、電気生理学的手法による神経機能の解析等を行うことにより、脳内におけるLcn2の機能を明らかにし、DZP長期投与による認知機能低下メカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬を投与した動物を行動解析と組織学的解析の両方に用いたり、生化学的解析を行う際にタンパク質とmRNAを同一個体から採取するなどして、使用動物数を極力減らした。また、電気生理学的記録に代えて、すでに実験系として確立していた行動薬理学的解析を行ったため、一部の消耗品の購入費用を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
神経細胞の形態観察を行う際、シナプス構造であるスパインの形態を観察するためには弘前大学共通機器であるレーザー共焦点顕微鏡を使用する必要性がある。この共通機器を使用して取得した画像の解析を効率的に行うため、専用の画像解析ソフトウェアを購入する計画である。
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