研究課題
ベンゾジアゼピン系薬剤は不安障害の治療や睡眠誘導、鎮静などに広く用いられるが、長期的なBZD系薬剤の使用によって、薬剤耐性や依存症、離脱症、認知症発症リスクの増加などの弊害をもたらすことが報告されている。特に近年、BZD長期使用による認知機能障害が高齢者において深刻な問題となっているが、その細胞レベルおよび組織レベルでの発症メカニズムは未解明である。我々はこれまで、BZD薬剤であるジアゼパム(DZP)長期を長期投与したマウスの脳組織においてLcn2の発現が増加することを見出し、行動薬理学的解析を行うとともに、組織的および機能的変化を観察して、海馬CA1領域およびCA3領域におけるスパイン密度の減少や、若齢成体マウス海馬CA1領域における長期増強(LTP)の減弱を明らかにしてきた。また、ミクログリア細胞株(BV-2細胞)を用いてDZP長期投与後のLcn2発現の増加と形態的な不変性を明らかにしてきたが、BZD長期投与の細胞分裂への影響は未解析であった。そこで、神経系細胞株(Neuro2A)、アストロサイト細胞株(U373)およびBV-2細胞をもちいて、DZP、ロラゼパムおよびミダゾラムの存在下における細胞増殖率を解析した。その結果、いずれのBZD系薬剤もBV-2細胞およびNeuro2A細胞の増殖性を強く抑えたが、U373細胞の増殖性には大きな影響が認められなかったことから、BZD系薬剤の長期投与はミクログリアや神経細胞の増殖を抑え、認知機能に影響を及ぼす可能性が考えられる。また、細胞増殖性の変化には、GABAA受容体阻害剤(bicuculine)や、末梢性ベンゾジアゼピン受容体阻害剤(PK1115)による影響が認められなかったことから、BZD系薬剤の長期投与による細胞増殖抑制作用は、未知の経路を介して制御されている可能性が示唆された。
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European Journal of Pain
巻: 23 ページ: 739~749
https://doi.org/10.1002/ejp.1341