平成30年度は、前年度までの研究を補完する調査と、文献・テクストの分析、そして研究課題についての総合的な考察に取り組んだ。具体的には、まず寺山修司を中心とした1960~70年代の文学・芸術言説における「東北」表象の事例を収集し、同時代の文化的・社会的なコンテクストを視野に入れて検討を行った。あわせて、前衛的な作家による「東北」の表現について、小説・短歌・演劇・ラジオドラマ・映画など幅広いジャンルの作品を対象として分析した。中でも、戦前から活動していたモダニスト作家・今官一の高度経済成長期における「津軽」表象に注目し、関連資料の収集および分析を行った。他に、東北地方における土方巽に関連する行事に参加し(「鎌鼬の里芸術祭2018」(秋田県羽後町、平成30年9月16~17日)など)、関係者への聞き取りも行った。以上の研究を踏まえて、1960~70年代の前衛芸術における「東北」表象のありようと、その地方への影響についての考察を行った。 研究成果として、寺山修司の「恐山」表現が持つ特性について、同時代の「恐山ブーム」を視野に入れて分析した学会発表「「どこに行っても恐山はある」― 一九六〇年代の文学における「恐山ブーム」と寺山修司―」(日本文芸研究会第70回研究発表大会、平成30年6月17日)と、それに基づいた同じ表題の論文(『寺山修司研究』第11号、2019年3月)、また今官一の文学的な方法と、「アイヌ」および「津軽」表象の問題を論じた学会発表「今官一、〈場外れ〉のモダニストの射程―『巨いなる樹々の落葉』を中心に―」(日本近代文学会北海道東北合同研究集会、平成31年8月4日)が挙げられる。他に、前衛的な表現と翻訳との関係性を追究した論文「翻訳と(しての)モダニズム―生田長江/横光利一の交差をめぐって―」(『文藝空間』第11号、2018年11月)も、本課題に関連する業績と位置づけられる。
|