研究実績の概要 |
本研究では、励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)特性を有する星型発光性分子の創製を目的とした。 当初計画に従い、3-ヒドロキシチオフェンをプロトンドナー部位、1,3,5-トリアジンをプロトンレセプター部位、異なる官能基を有するアリール基を発光特性制御部位として構成される2,4,6-トリス(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジンを合成し、物性評価を実施した。いずれの標的分子も、可視領域に発光帯を示したが、量子収率は極端に低く、非発光性であることが確認された。また、ヒドロキシ基をメトキシ基に置換し、ESIPTを阻害した比較誘導体よりも、標的分子群の吸収と発光波長の差が小さいことから、ESIPTを経由した発光ではないと判断される。プロトンレセプターとなるトリアジン窒素原子の塩基性が低く、ESIPT発光の発現に必要な分子内水素結合が弱いことが要因と考えられる。 これらの知見を踏まえ、トリアジン骨格上の二つの側鎖を電子供与性のジメチルアミノ基に変更することでトリアジン窒素原子の塩基性を向上させた2,4-ビス(ジメチルアミノ)-6-(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)- 1,3,5-トリアジンを新たな標的分子として合成し、物性評価を実施した。いずれの標的分子も紫外領域に吸収帯、可視領域に発光帯を示し、アリール基の種類に応じて異なる発光色が視覚的に検出された。また、ヒドロキシル基をメトキシ基に置換した比較誘導体よりも、標的分子の吸収と発光波長の差が非常に大きいことから、ESIPT由来の発光であることが示唆された。これにより、標的分子群が紫外光を吸収して可視光を発光する「波長変換特性」を有することを明らかとした。また、標的分子は環境応答性を有し、発光色変化として溶媒やイオンを視覚的に検出可能な蛍光プローブとして機能することを見出した。
|