研究課題
哺乳類の大脳皮質が進化過程で拡大した一因として、神経幹細胞として働く放射状グリア(radial glia; RG)細胞の形態および分化機構が複雑化したことが挙げられる。我々は哺乳類RG細胞の長い突起構造内を長距離輸送される分子として細胞周期因子Cyclin D2を同定し、Cyclin D2の細胞内局在により細胞運命が決定されることを報告している。Cyclin D2 mRNA輸送に必要な配列は哺乳類においてのみ保存されているため、このRG細胞内のユニークな分子機構の獲得が種間の大脳皮質構築の差異を生み出す可能性が示唆される。本研究は、生物種による大脳皮質構築の違いがRG細胞形態の進化に伴うCyclin D2 mRNA輸送システムの有無によって作出されているかを検証することを目的としている。Cyclin D2 mRNAの輸送に必要な3´UTR領域に存在する約50 bpの認識配列(Tsunekawa et al., EMBO J, 2012)を、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法により欠損させ、Cyclin D2 mRNA輸送配列を欠失したマウスを数ライン作製した。この数ラインのうち、F0世代の胚のRG細胞の基底膜突起先端部において、Cyclin D2 mRNAの発現が消失するラインが存在した。また、Cyclin D2 mRNAの輸送が阻害されたラインで、大脳皮質の低形成が認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法を用いて、Cyclin D2 mRNA輸送配列を欠失したマウスを数ライン作製できた。また、F0世代の胚の解析により、Cyclin D2 mRNA輸送阻害が、大脳皮質形成に影響を与える可能性を示唆できる結果を得たため。また、動物種間でのCyclinD2の発現比較を行うため、マウス以外の動物種におけるCyclin D2のクローニングも進捗している。
Cyclin D2 mRNA輸送配列を欠失したマウスについては、F0世代の胚の解析を行なっていたが、より正確な解析を行うためにはF1世代移行の個体の解析が必要である。現在、F1世代を作製中で、F1世代以降の胚でに大脳皮質における同様の解析を進める予定である。また、鳥類胚、爬虫類胚のRG細胞可視化のための遺伝子導入の準備を進めており、RG細胞の形態に依存してCyclin D2 mRNA輸送が行われるのかについて検討する予定である。
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