大脳皮質神経幹細胞として働く放射状グリア(radial glia; RG)細胞の形態および分化機構の複雑化が、哺乳類の大脳皮質進化につながったと考えられる。哺乳類RG細胞の長い突起構造内を長距離輸送される分子として細胞周期因子Cyclin D2を同定し、哺乳類においてのみ保存されるCyclin D2 mRNA輸送に必要な配列に着目した。このmRNA輸送配列をゲノム編集技術CRISPR/Cas9法により欠損させ、Cyclin D2 mRNA輸送配列を欠失したマウスを数ライン作製した。F1世代以降のCyclin D2 mRNA輸送配列欠失マウスにおけるCyclin D2 mRNAの局在を解析したところ、RG細胞の基底膜突起先端部においてCyclin D2 mRNAの発現が減少していた。欠失領域の異なる各ラインでCyclin D2 mRNA発現減少の度合いが異なることから、Cyclin D2 mRNA輸送に必要な配列をさらに絞ることができた。また、RG細胞の細胞体が存在する脳室帯(ventricular zone)に着目すると、Cyclin D2 mRNA輸送配列欠失マウスの各ラインでCyclin D2 mRNAの発現が増加することから、mRNA輸送が阻害されたことが示唆される。現在、F1世代以降の大脳皮質構築について詳細な解析を行っている。 また、この輸送配列は哺乳類においてのみ保存されていることから、RG細胞内のユニークな分子機構の獲得が種間の大脳皮質構築の差異を生み出す可能性が示唆される。生物種による大脳皮質構築の違いがCyclin D2 mRNA輸送システムの進化に伴って作出されているかを検証するために、マウス以外の動物種でのCyclinD2の発現比較のためのCyclin D2のクローニングも進捗しており、in situ hybridizationによる解析を行っている。
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