研究課題/領域番号 |
16K20910
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永井 友朗 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10723059)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / TTBK2キナーゼ / Cep164 |
研究実績の概要 |
一次繊毛は脊椎動物の多くの細胞に見られる突起構造であり、細胞外からの様々な刺激を受容する「アンテナ」としての役割を有する。一次繊毛は、個体の発生や組織恒常性の維持に必須であり、その形成や機能の欠損は繊毛病と総称される遺伝性疾患の原因となる。培養細胞において、一次繊毛は増殖抑制条件下で形成され、特にTTBK2キナーゼがその過程に必須であることが知られているが、その活性化機構は不明である。 私たちは、TTBK2がDNA損傷応答キナーゼATRによってリン酸化・活性化される可能性を検証した。これまでの解析から、DNA損傷ストレスによるTTBK2のリン酸化の亢進や、ATR阻害剤によるTTBK2のリン酸化への影響が見られず、ATRによるTTBK2の活性化を示す結果は得られなかった。 私たちは以前に、中心体タンパク質Cep164がTTBK2を中心体へとリクルートすることで、その一次繊毛形成能を制御していることを報告している。本研究ではさらにCep164がTTBK2のキナーゼ活性に与える影響を検証した。TTBK2はN末端側にキナーゼドメインを有し、C末端側がN末端側と相互作用することでそのキナーゼ活性を自己阻害している。そこで、in vitroキナーゼアッセイを行い、TTBK2のN末端断片タンパク質が全長タンパク質に比べて高いキナーゼ活性を有すること、さらにC末端断片タンパク質を結合させることで、そのキナーゼ活性が抑制されることを確かめた。さらに、Cep164のN末端側がTTBK2のC末端側と結合することで、TTBK2のN末端側とC末端側同士の相互作用を解離させ、それによってN末端側のキナーゼ活性が上昇することを示した。 以上から、TTBK2に対するCep164の相互作用が、TTBK2の中心体局在を規定しているだけでなく、その活性化にも寄与していることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの解析から、当初予想されていたATRキナーゼによるTTBK2の活性化を示す実験結果は得られなかった。しかし、TTBK2の分子内結合がキナーゼ活性を自己阻害的に抑制していることをin vitro キナーゼアッセイにより明らかにした。さらに、Cep164がTTBK2の分子内結合を抑制し、キナーゼ活性を亢進していることを見出した。この結果は、Cep164がTTBK2の活性化に寄与していることを強く示唆するものであり、一次繊毛形成過程におけるTTBK2の活性化機構を明らかにするという本研究目的の進捗に貢献するものである。以上の点から、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、in vitroでの解析で明らかになったCep164によるTTBK2の活性化が、増殖抑制依存的な一次繊毛形成に関与しているかどうかを解明する。まず、増殖抑制刺激によるCep164とTTBK2の相互作用の変化や、TTBK2の局在変化に対するCep164発現抑制の影響を検証する。また、TTBK2の基質として報告されているKIF2Aのリン酸化に着目し、増殖抑制依存的なKIF2Aのリン酸化レベルの変化とCep164、TTBK2の発現抑制による影響を検証する。それによって、KIF2Aが増殖抑制依存的にTTBK2によってリン酸化されることが明らかになった場合、KIF2Aの発現抑制及び、リン酸化変異体の発現が一次繊毛形成に与える影響を解析することにより、増殖抑制依存的な一次繊毛形成におけるKIF2Aのリン酸化の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ATRによるTTBK2の活性化を示す実験結果が得られなかったため、研究開始当初想定していた、一次繊毛形成過程におけるATRによるTTBK2のリン酸化部位の同定、DNA損傷応答シグナルにおけるTTBK2機能解析などの研究計画を実施しなかった。そのため、実験に使用する消耗品や試薬の使用を減らすことができ、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に引き続き、消耗品の購入、研究成果報告のための旅費、および研究成果の投稿料を計上する予定である。
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