一次繊毛は脊椎動物の多くの細胞に見られる突起状のオルガネラであり、細胞外からの物理的・化学的な刺激を受容する機能を有する。一次繊毛は個体の発生や組織の恒常性維持に必須であり、その形成や機能の欠陥は嚢胞腎・網膜変性・肥満・多指症などを併発する繊毛病の原因となる。一次繊毛の形成と消失は細胞周期の進行と密接な関係があり、培養細胞では血清飢餓などの増殖抑制条件下で形成されることが知られている。TTBK2は脊髄小脳変性症の原因となるセリン・スレオニンキナーゼだが、最近増殖抑制依存的な一次繊毛形成に必須であることが報告された。しかし、その活性化制御機構は未だに不明であった。私たちはこれまでに、一次繊毛形成時におけるTTBK2の活性化機構を解明する目的で研究を行い、以下のような結果を得た。 1) 脊髄小脳変性症の原因となるTTBK2変異体の活性測定:TTBK2はN末端側にキナーゼドメインを有し、C末端側がN末端側と分子内相互作用することでそのキナーゼ活性を自己阻害している。脊髄小脳変性症の家系においては、TTBK2のキナーゼドメインの直後に変異を生じ、結果としてC末端側が欠損した変異タンパク質を発現する。私たちは、この変異体に相当するTTBK2のN末端断片タンパク質を作製し、キナーゼアッセイにより活性を測定したところ、野生型タンパク質と比べて活性が著しく低下していることが明らかとなった。 2) Cep164によるTTBK2の活性化:Cep164とTTBK2の精製タンパク質を用いた結合実験により、Cep164のN末端側のWWドメインがTTBK2の分子内相互作用の解離に必要であることを明らかにした。また、Cep164と結合できないTTBK2変異体が野生型TTBK2に比べて自己リン酸化レベルが著しく低下していたことから、Cep164との結合がTTBK2の活性化に必要であることが明らかとなった。
|