研究課題/領域番号 |
16K20915
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
出浦 桃子 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90609299)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シリコン表面炭化 / 平衡反応 / シリコン基板 / 炭化ケイ素バッファ層 / 窒化物半導体成長 |
研究実績の概要 |
本研究では,SiC-SiO2-CO系平衡反応を用いたSi基板の表面炭化によるSiC薄膜形成において,炭化メカニズムを解明し,高品質なSiC薄膜を得ることを目的としている.申請者は,Si 基板上の窒化物半導体成長用バッファ層として,表面炭化という簡便な手法で形成したSiC薄膜を提案している.しかし,熱力学データベースから作成した相安定図による予測と実験結果が一致せず,炭化反応の精密な制御が困難であった.そこで本研究では,反応炉内ガス分圧の時間変化と到達値を詳細に測定し,炉内で生じている反応を正確に把握するとともに平衡定数と反応速度定数を定量的に求める.これにより,炭化メカニズムを包括的に明らかにし,高品質SiC薄膜を得ることを最終目標としている. 上記の目的を達成するため,平成29年度は,ガス分圧測定および炭化実験のために,SiC-SiO2-CO平衡反応を生じさせる小型反応装置を導入した.反応炉は熱容量を小さくし,昇降温速度を大きくできる設計とした.実験に必要なSiC・SiO2・C固体原料を入れる容器は広口・浅底に設計した.反応炉直前にはバルブを設け,加熱中のガス流入を阻止する設計とした.ただし,昇温すると炉内の圧力が増加するため,排気によって炉内気圧を制御する機構を設けた.排気系とは別に,分圧測定用のガスを得るための取出口を設けた.これにより,反応炉内のガス種とその分圧を正確に把握することができる.一方,固体原料を入れる容器をSi基板を設置する支持板(サセプタ)に変更するだけで,同じ反応炉を用いてSi表面炭化実験も行うことが可能である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
小型反応装置の導入にあたり,仕様に変更が生じ,仕様の再検討に時間を要したため.
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今後の研究の推進方策 |
1) ガス分圧測定用の検量線の作成:炉内のガス分圧(すなわち濃度)の定量評価のために,濃度の分かっているガスを複数種類用意し,吸収ピークの大きさと濃度の関係を表す検量線を作成する. 2) ガス分圧の時間変化・平衡値の温度依存性:粉末とガスを導入した反応炉を速やかに設定温度に到達させ,内部が平衡状態に達するまで保持する.その間,反応炉内のガスを取り出し,CO以外にどのようなガス種が存在するかを調べ,1)で作成した検量線をもとに分圧の時間変化と平衡値を求める.これをさまざまな温度で行い,温度依存性を系統的に調べる.なお,測定のために反応炉から取り出すガス量と測定時間を考慮すると,一度の加熱実験で測定できる回数が多くないことから,本研究では先に長時間領域測定を行い平衡分圧を求める.一方,反応は一般に時間に対して指数関数的に進行するため,ガス分圧変化が大きい加熱初期段階に着目して時間依存性を測定し,両者を組み合わせて統一的な時間変化を見る.これらの測定で求めたガス種や分圧変化から,系内で生じている平衡反応を決定する. 3) 炭化メカニズムの考察:2)で決定した平衡反応のすべてについて,実測した平衡分圧をもとに平衡定数を算出する.これを熱力学データベースの値と比較することで,データベースの値の妥当性を検討する.また,ガス分圧の時間変化から反応速度定数を求める.これらのデータをもとに,SiC-SiO2-CO系平衡反応の炭化メカニズムを考察し,統一的な理解を得る.さらに,Si基板炭化に適切な実験条件を推定する. 4) Si基板の炭化:3)で推定した実験条件をもとに,高品質SiC薄膜を形成する炭化プロセス条件を調べる.得られたSiC薄膜の膜厚や平坦性・構造および結晶性などは,各種顕微鏡やX線回折等を用いて評価する.
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